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生産性向上や業務改善を目指して、人工知能(AI)や自動化に投資する企業が増えている。その一方、新たなテクノロジーに対する恐怖心や雇用リスクへの不安から従業員のストレスは高まり、それがむしろ労働生産性や士気を大幅に低下させてしまうことさえある。だが、コストや人員の削減ではなくイノベーションの創出に焦点を絞りながら、従業員の再訓練やヘルスケアにテクノロジーを活用する2つのアプローチを同時に進めることによって、企業はAI時代のメリットを享受することができる。


 企業は往々にして、自動化や人工知能(AI)が労働生産性を高める重要な源泉であると見なしている。しかし、従業員側は多くの場合、こうしたテクノロジーの導入によって自分たちの雇用が危うくなったり、職場におけるストレスが増加したりすると考える傾向がある。

 最近の研究でも、この見解の相違が浮き彫りになっている。

 ロボット利用の増加によって、1980年から2014年の間に主要先進国の労働生産性は1年で約0.4ポイント上昇した。同期間内で、労働者1,000人に対してロボットが1台増えるごとに、人口に占める労働者の割合は約0.2~0.3ポイント、賃金は0.3~0.5ポイント減少している。

 同じ期間中の、これらの国々の経済成長全体の3分の1は情報通信技術によるものであったが、企業におけるテクノロジーの普及はほぼ同じ割合で従業員のストレスを増加させている。

 AIや自動化への投資を強く望んでいる企業にとって、従業員のテクノロジー導入に対する恐怖心は多大な影響を及ぼすおそれがある。従業員のリスク回避傾向の高まりが、意図していなかったマイナスの効果をもたらすからだ。

 従業員が将来を恐れるあまり、消費者としての行動を変えたり消費を控えたりしたらどうなるだろうか。新しいスマートマシンを使う際に従業員が著しくストレスを感じる場合、労働生産性が大幅に低下し、自動化や職場環境の変化によるメリットを相殺してしまうことはないだろうか。

 こうした問題を掘り下げるべく、我々は最新の研究で、AIが普及することによって、ウェルビーイングに関連するさまざまな要因にどのような影響が出るのか分析した。

 分析にあたっては、通常使われるGDP以外の指標も盛り込んだ。一人当たり所得の伸び率のほか、テクノロジーが認知能力の高い働き手を後押しする一方で認知能力の低い人々に取って代わることから生じる所得格差の拡大リスク、スキルの不一致と産業間の人材移動が限定されるために少なくとも一時的に生じる失業のリスクを採用した。

 また、ストレスを生じさせるおそれのある仕事上の高負荷、疾病予防やパーソナライズされた効果的な医療の提供といった、AIのブレークスルーによる寿命延長なども考慮に入れた。