データを企業の「ど真ん中」に置き
なくてはならないものにする
現在、北川氏が率いるデータ戦略のチームは、全世界で700人を超える規模に成長している。ただし、すぐにこれほどの大規模なチームができたわけではない。北川氏が楽天に入社した当時、データ関連のチームには2人しかいなかったという。それがすぐ5人になり、その後は毎年倍々のペースで成長してきた。

北川拓也 常務執行役員CDO
700人規模にまで成長する過程で、北川氏のチームが楽天グループ内でやってきたことは、「データを企業のど真ん中、王道に持ってくる」ことだという。言い換えれば、メンバーシップカンパニーというビジョン実現のためにAIやデータをなくてはならないもの(=Must-Have)にするということだ。北川氏は自身の役割を「楽天グループ内の全ての事業長、事業を統括している人が、『絶対にないとウチの売り上げが激減する』という位置付けまでデータやAIの存在を高めること」だと語った。
では、どうすればデータやAIを「企業にとってなくてはならないもの」にできるのだろうか。北川氏はその実現のために最も大切なポイントとして「経営陣の巻き込み」を挙げた。そのために楽天では、創業者であり、代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏のリーダーシップで「AI/Data Summit」という会議を開催しているという。
この会議は3カ月あるいは4カ月に1度開催するもので、グループ内全企業の執行役員全員とCxO全員を1つの部屋に集め、丸一日かけてデータとAIの戦略について話し合うというものであり、ここ2~3年で開催するようになったという。北川氏は「とてつもなくコストの高い会議。開催していただけるのが大変ありがたい」と、この会議が楽天グループの中でも重要なものであることを強調している。新型コロナの世界的感染拡大で、大人数を一部屋に集めることができない現在は、WEB会議の形で開催し、1回の時間は短くなったものの、開催頻度を2週間に1回に高めているという。
そして北川氏は、経営陣を巻き込む上で、分かりやすい具体的な結果を示し、データがどうお金に結びついたのかを説明することが重要なポイントになると指摘する。前述のAI/Data Summitでも、分かりやすい成果の話をすることを欠かさないという。
その例として、北川氏が挙げたのが楽天カードの成功事例だ。楽天カードは今や取扱高国内No.1のカード会社にまで成長した。その上で重要だったのが、楽天市場の顧客を楽天カードに送客し、楽天カードがポイントを発行することで、顧客が楽天市場に戻っていく流れを作ったことだという。これで、カード会員の獲得コストが劇的に下がり、日本最大のカード会社の地位にまでたどり着いた。
楽天グループでは、このパターンを「勝利の方程式」とし、同社のほかのサービスにも展開している。同社は携帯電話サービスに本格的に進出したが、自信を持って進められる背景にはこの成功体験がある。この勝利の方程式を10倍、100倍のスピードで進めるために、AIを駆使したシステムを開発したのだと北川氏は強調した。
また、北川氏は経営陣の理解を得るだけでなく、新卒研修でデータ研修を実施することが非常に重要だと語る。さらに「会社の文化は、新卒社員に何を教えるかで決まる」と断言している。上から(経営陣)だけでなく、下から(新卒研修)も働きかけることで、企業にデータを活用する文化が根付くということだろう。