オープンブック・マネジメントの登場

 管理職は高業績へのプレッシャーにたえずさらされている。そのため、新しい経営ツールや手法と聞けば、まず興味を抱く。とはいえ、リエンジニアリングやセルフ・マネジメント・チームなど、多くのイノベーション手法は、限られた効果しか発揮できなかった。その理由の一つは、それらが方法論と結果のみに焦点を当てており、肝心の「変革の必要性」には触れていなかったからだ。

 これら従来手法は、社員たちに、彼ら彼女らが業績を改善するために取り組むべきことを示しはするが、「なぜ」そうしなければならないのかについては教えてくれない。実際、ここ15年余りの間に打ち出された新しい経営手法やプログラムの数はとどまるところを知らず、我々に無力感を残しただけだった。これらは「社員たちのため」のものだったはずなのに、結局は外部のベンダーやコンサルタントを利するだけに終わってしまった。

 私は、持続的成長を目指して、より直接的かつ効果的なアプローチに取り組んでいる企業について調査してきた。その大半は中小企業だが、一部の大企業も含まれている。そのアプローチとは、「オープンブック・マネジメント」というものである。

 オープンブック・マネジメントの思想はいたって単純であり、しかも社員の意識を変え、会社の業績を大きく向上させる可能性を秘めている。オープンブック・マネジメントを導入することで、社員たちは品質や効率など、個々の業績管理指標だけに目を向けるのではなく、経営者や管理職同様、事業全体の成功に関心を抱くようになる。つまり、オープンブック・マネジメントは現場社員にも経営者と同じ感覚を植えつける効果があるのだ。

 オープンブック・マネジメントはまず、社員たちに業績向上の必要性、すなわち「なぜ」(why)を正しく意識させることから始まる。それを踏まえて、社員と管理職は力を合わせて、その具体策、すなわち「どのように」(how)を考える。

 どのようなツールや手法も、導入し、活用するのは容易なことではない。しかし、オープンブック・マネジメントが導入されれば、それも比較的容易になる。なぜなら、事業を成功に導くための課題の解決に向けて、あらゆる階層の社員たちを束ねる基盤をつくるからだ。

 これまでオープンブック・マネジメントを導入してきたのは、ほとんどが中小企業や新興企業だった。ところが最近では、大企業でもオープンブック・マネジメントの導入が可能であり、業績の向上に効果をもたらすという認識が広まっている。

「現場の社員たちも積極的に会社経営に関わるべきである」。これがオープンブック・マネジメントの出発点にある。このような考え方は、まだ企業管理の主流とは認められていない。科学的管理の父とされるフレデリック W. テイラーならば、何とばかげた考えだと一蹴するのではないか。同様に、伝統的な考え方になじんできた経営者や管理職、労働組合の幹部、さらには現場社員たちも、すぐにはオープンブック・マネジメントの趣旨に賛同しないだろう。

 しかし最近になって、徐々に支持されつつある。各種のプロフィット・シェアリングや従業員持ち株制度、ストック・オプションなど、新しい報酬システムの根底にあるのも、この考え方であるし、当然、いわゆるエンパワーメントや社員参加型経営もつながっている。ただし、これらの制度やプログラムも、せいぜいオープンブック・マネジメントの半分程度の効果しか上げられないだろう。