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コロナ禍が始まってかなりの期間が経つが、信じ難いことに、米国ではいまだに医療物資が不足している。問題が解決に向かっていないどころか、悪化しているとすら言える状況だ。連邦政府の「サプライチェーン・タスクフォース」に参画し、当事者としてこの問題と向き合ってきた筆者らが、米国の現状を打破するための解決策を提案する。


 にわかには信じ難いかもしれないが、コロナ禍が始まってかなりの期間が経過したにもかかわらず、米国はいまだに、新型コロナウイルス感染症対策に用いる個人防護具やその他の重要な医療物資が不足している。物資の供給不足は現在も解消していない。というより、むしろ状況は悪化しているくらいだ。

 病院や老人ホームは日々、使い捨てのマスクや手袋を再利用するための消毒に時間を費やさなくてはならない。しかも、そのような行為には、感染リスクを高めるという弊害もある。

 多くの病院や老人ホームはいまでも、必要な物資を確保するために裏ルートや闇市場を必死で当たらなくてはならない。人工呼吸器の不足は解消されたが、集中治療室(ICU)で使用する薬剤と検査試薬の不足はまだ続いている。

 その原因は、サプライチェーンの数々の深刻な欠陥が解決できていないことにある。筆者らのチームは、米国連邦政府の「サプライチェーン・タスクフォース」の取り組みの一環として、状況を把握し、問題点の解決策を探った。

 その結果、見えてきたのは、サプライチェーンの欠陥を解決するのは可能だということだ。そのために必要なのは、連邦政府が「戦略的国家備蓄(SNS)」の権限を強化し、現状よりも質の高い情報とテクノロジーを活用できるようにし、専門的な能力を高めればよい。

 そのような変革を実行することは、きわめて重要だ。新型コロナウイルスの感染拡大の波が再び訪れる時に備えるためにも、そして、やがて新たな医療上の危機やテロ攻撃による危機が持ち上がった際に適切な対応をするためにも、それが必要なのだ。

重要な安全ネット

 医療上の非常事態が起こった時、医薬品や医療物資が足りない州政府や医療機関は、ジョージ W. ブッシュ政権下で創設された「戦略的国家備蓄」を頼りにできるはずだった。しかし、戦略的国家備蓄は、バイオテロなどの短期的な脅威に備えることを前提にしており、今回のような感染症の流行には準備ができていなかった。

 この点も一因となり、コロナ禍で戦略的国家備蓄は完全に虚を突かれ、まったく準備ができていない状態だった。

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まった時点で、戦略的国家備蓄のマスク備蓄は2009年の新型インフルエンザの世界的流行以降、補充されていなかった。マスクの使用期限がすでに経過しているケースも多かったし、マスクが破損しているケースもあった。ほかの個人防護具や人工呼吸器の供給も十分でなく、2月の時点で早くも在庫が枯渇してしまった。

 戦略的国家備蓄がコロナ禍に適切に対処できなかった大きな要因は、深刻な予算不足にある。しかし、それは大きな問題の一つの「症状」にすぎない。

 連邦政府のサプライチェーン・タスクフォース(本稿筆者3人はそれぞれ、このタスクフォースの下のチームの一員として活動した)は、システム全体に関わる大きな問題を3つ洗い出し、問題の解決策を提案した。このタスクフォースの勧告はまだ検討段階で、戦略的国家備蓄を取り巻く状況は現在も変わっていない。