〈リナックス〉とトヨタ生産方式の共通点

 リーダーが、成長、学習、イノベーションを追求する時、その答えを思いがけず見つけられるところがある。オープン・ソース・ソフトウエアのコミュニティである。

 あまり知られていないが、〈リナックス〉を世に送り出したリーダーは、チームを活性化し、コストを引き下げる新しいやり方の達人である。もちろん、この手の達人集団は〈リナックス〉の開発者だけに限らない。

〈リナックス〉はあらゆる点で、きわめて競争力の高い製品である。いまや〈リナックス〉を搭載したサーバーの数は、ほかのOSを搭載したサーバーよりも多いといわれる。また、法人への導入数でも〈UNIX〉を圧倒している。

〈リナックス〉は、コストと品質だけでなく、機能の強化や性能の改善が速い点でも優れている。技術上の制約や知的財産権の取り扱いについては意見が分かれるが、〈リナックス〉の成功はその独特の開発手法が決定的であるという点で、関係者の意見は一致している。

〈リナックス〉は数千人のプログラマーや数千社もの企業からなる、基本的に自己組織的なコミュニティによって開発されたオープン・ソース・ソフトウエアである。多くの経営陣が、いわゆる「リナックス・ハッカー」のように、効率的かつ創造的にコラボレーションできる集団を手に入れるためなら、何でもするだろう。しかし、〈リナックス〉はソフトウエアであり、この世界は変人の集まりと思っている向きもいるだろう。

 では、トヨタ自動車ならどうだろう。世界水準の実績を上げている他の企業と同じく営利組織である。同社は長年、TQC(総合品質管理)とリーン生産方式のリーダーとして知られてきたが、ハイブリッド車〈プリウス〉の成功で、イノベーターとしての評判も確立している。

 我々は、トヨタの経営手法におけるさまざまな基本原理が、リナックス・コミュニティによく似ていることを発見した。たとえば、かの有名なトヨタ生産方式に世界中の企業が大きく反応したのは、オープン・ソースの特性にも支えられていたからである。実際、トヨタは伝統的な階層組織と、リナックス・コミュニティのような自己組織的なネットワークの2つの特性を両立させたハイブリッド型組織へと変貌しつつある。

 なお、本稿で言うリナックス・コミュニティとは、〈リナックス〉およびその他のオープン・ソース・プログラム、あるいは現在も進行中であるフリー/オープン・ソース・ソフトウエアを開発するグループを指す。

 トヨタ生産方式のコミュニティは、トヨタおよび日米の主要サプライヤー、すなわち一次部品サプライヤーからなる一群を意味している。市場と階層組織それぞれの特性を融合させているという点で、トヨタ生産方式のコミュニティはリナックス・コミュニティに驚くほどよく似ている。

 いくつか例を挙げよう。これらのコミュニティは、市場と同じく自己組織的だが、市場と異なり、金銭や契約は決定的な役割を果たしていない。また、階層組織と同じように、〈リナックス〉とトヨタ生産方式のコミュニティの取引コストは低い。ただし、階層組織と違って、メンバーは多様な組織に属するか、逆にどの組織にも属しておらず、あらかじめ決められた特定の役割や任務に縛られることはない。