現場の判断力に委ねる「分散型」で環境変化に備える

デロイト トーマツ グループ CSO(戦略担当執行役)
経営戦略・組織改革/M&A、経済政策が専門。フジテレビ「Live News α」コメンテーター、中央大学ビジネススクール客員教授、事業構想大学院大学客員教授、経済同友会幹事、国際戦略経営研究学会理事。主な著書に『両極化時代のデジタル経営——ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社、2020年)、『自己変革の経営戦略~成長を持続させる3つの連鎖』(ダイヤモンド社、2015年)など多数。デロイト トーマツ グループに集う多様なプロフェッショナルのインサイトやソリューションを創出・発信するデロイト トーマツ インスティテュート(DTI)の代表も務める。
松江 自己変革できる組織において「3つの連鎖」を支えるのは「人」なので、一人一人が、上からの指示がなくとも自ら判断できるかどうか、が命運を握ります。生物において、一つ一つの細胞の動きが重要な役割を果たすことに相通じるところがあると思うのですが、いかがでしょうか。
福岡 そうですね。それは細胞にも当てはまると思います。生命体の大きな特色は「分散型」であることです。脳が「中枢神経」と呼ばれていることもあり、体は脳を頂点とした中央集権であるかのように誤解している人は多いのですが、脳は末梢から情報を受け取って、変換してまた末梢に返す電話局のような役割を担っているにすぎません。実際、ほとんどの生命体は脳がなくても何の問題もない。脳からの指令がなくともローカルの問題をローカルでちゃんと解決できるからです。肝細胞はお酒を分解するし、筋細胞は筋維を収縮させて力を発揮する。環境の変化を察知したら、その場で処理するのが一番早いし確実です。
松江 今後は、企業組織も「分散型」になり、「現場」と「トップマネジメント」の両極化が進むと思います。デジタル化が情報格差をなくしていくことで、ヒエラルキー構造の組織の必要性が薄れ、中間層が薄くなり、より現場の実行部隊に意思決定の権限を委譲しやすくなるからです。
福岡 生命体も分散かつ自律していますから相似形ですね。中間機能が淘汰され、トップと実行部隊だけで成立する点も同様です。生命体においては、専門分化した細胞が実行部隊で、幹細胞(ステムセル)がトップに当たります。体内にはさまざまな細胞に分化する能力を備えた幹細胞が温存されており、いざ問題が起きればそれらが増殖し、分化して組織を再生させるのです。けがが治るのも、こうした再生能力があるからです。しかも、細胞の役割分担も可変的で、ある細胞が欠落すれば、他の細胞がその役割を補うこともできます。
松江 まさに組織は生き物ですね。以前、元サッカー日本代表監督の岡田武史さんと対談させていただいた際に、福岡先生とのお話が発端となった「生物的組織」が理想だとお話しされていました。
福岡 そうですね。岡田さんにこういう話をしていたら、「分散的な動的平衡サッカーが実現したら、常勝チームができる」とおっしゃっていました。その理想が実現すると監督は要らないかもしれません(笑)。
松江 確かに(笑)。ただ、さすがに分散型組織でもリーダーは必要でしょうが、その役割は確実に変化すると思います。これからは、長期的に組織が目指すべき姿や存在意義(パーパス)を旗印に、上意下達ではなく分かりやすく示し、現場がより「自律」して判断し、行動できるように導くことがより重要になるでしょう。