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「リーダーシップの根源的状態」とは何か
リーダーは絶好調の時もあれば、そうでない時もある。なぜだろう。多くの人たちが優秀なリーダーになろうと、偉大なリーダーの特性と行動をつまびらかにし、それらを真似てみる。実際、リーダーシップに関する教育研修や書物のほとんどが、成功を収めたリーダーの行動を研究し、それを模倣すべきであると説く。ならば、優秀なリーダーになるための分岐点はどこなのだろうか。
我々の研究グループは、リーダーたちが最も素晴らしい仕事を達成した時、実はだれの真似もしていないことを発見した。その時、彼ら彼女らは自己の根源にある価値観と能力を引き出し、これをフル活用しているのだ。言い換えれば、己に忠実に行動している。皮肉なことに、一般に正しいと思われている方法とはまったく正反対だ。
私はそれを「リーダーシップの根源的状態」(fundamental state of leadership)と呼ぶ。これは危機的状況に遭遇し、悩んだ末に前進することを選択した時、おのずと実践される。
あなたが、人生における重大な危機に直面した時のことを思い起こしてほしい。たとえば、白紙に戻った昇進、仕事での失敗、重い病、離婚、愛する者の死、その他の大きな衝撃などである。その時、おそらく周囲からの期待に応えるためではなく、「これが正解だ」という本能的な直感に従ったからこそ、言い換えれば、最大限の力が発揮できる状態にあったからこそ、このような危機に立ち向かえたのではなかろうか。
では、危機的状況ではない普段の時でも、このような根源的状態に至ることは可能なのだろうか。企業幹部を対象にコーチングを提供してきた私の経験によると、4つの問いに虚心坦懐に答えれば、いかなる時もその状態に移ることができる。ただし、それは一時的なものであり、周囲の抵抗などに遭ったりすると、たちまち崩れてしまうが──。
平常時と根源的状態とを一度往復すると、多少なりとも以前よりかは有能になり、周囲のパフォーマンスを向上させられるようになる。危機に瀕して、否が応でも根源的状態に押しやられるのを待つのではなく、意識してその状態に移ることで、やがてはだれもが有能なリーダーへと成長できる。
意識的に根源的状態へ移るために
一見すると、いとも簡単に、しかも自然にリーダーシップを発揮し、人々からの羨望の的になっている大統領、首相、CEOでさえ、いつも根源的状態にあるわけではない。ほとんどの場合、彼らも平常時にある。このような状態はたしかに健全であり、概してこのような状態であるべきだが、危機的状況に対処するには効果的な環境ではない。
人は平常時において、安心できる、慣れ親しんだ居心地のよい状態にとどまり、自分の行動や意思決定を外部の力に頼る傾向がある。みずから範を垂れる力をなくしたため、改革を起こそうとする際、しばしば論理で説き伏せるか、権威を行使するかのいずれかの行動に訴える。
このような場合、部下たちは脅威を感じて、リーダーの言葉にとにかく従う。その結果はといえば、えてして凡庸であり、抜本的イノベーションではなく、漸進的改善に終わる。そのほとんどが既存のものの焼き直しにすぎないのだ。