いま「人的資本経営」が注目を浴びている。人という見えない資産の情報をいかにデータとして活用し、組織の活性化につなげるのか。慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授の岩本隆氏、日本ユニシス執行役員の白井久美子氏、リンクアンドモチベーション取締役の川内正直氏の3人がその重要性について語った。

取締役
川内正直
Masanao Kawauchi
川内 そもそも「人的資本経営」とは、どのような経緯で出てきた概念なのでしょうか。
岩本 大きく二つの流れがあります。一つはリーマン・ショックの原因として財務諸表の数字に偏重した金融資本主義(Financial Capitalism)が批判されたこと。投資家からは、中長期の投資判断の材料として、非財務諸表、特に人材の指標を設定して開示すべきだという圧力が高まりました。金融資本主義(Financial Capitalism)から人的資本主義(Human Capitalism)へという方向性です。
もう一つの流れは2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)やESG投資で、これら二つの流れの中で、18年にISO(国際標準化機構)も人的資本レポーティングに関する指標のガイドライン(ISO 30414)を出版、さらに20年11月には米SEC(証券取引委員会)が人的資本レポートの開示を義務化しました。先進国ではサービス業の割合が高く、人が競争優位の源泉になってきているという背景もあります。
川内 リーマン・ショックとSDGsを契機に、企業を見る視点が「金」から「人」へと移ったのですね。
岩本 「人」のマネジメントは煩雑ですが、企業経営は今後確実にヒューマン・キャピタリズムに移るでしょう。
人が競争優位の源泉
見えない資本を有効活用
川内 サービス業においては人が競争優位の源泉だという岩本先生のお話がありましたが、日本ユニシスは早くからそのことを認識して改革に着手されました。その経緯についてお聞かせください。
白井 2000年代に入って、当社を含むIT業界はディスラプト(破壊)される危機に直面していました。そんな中、16年に代表取締役社長に就任した平岡昭良が、さまざまな業界のお客様やパートナーと共に、社会課題の解決に向けたビジネスエコシステムⓇの創出と、知の探索と知の深化(サステナブルとディスラプティブ)の両方を追求する「両利きの経営」への変革を打ち出しました。さらに従来のSIer(システムインテグレーター)事業領域に加え、ディスラプティブ領域を創発できる企業変革や、ビジネスモデル変革にもつながる風土改革を始めました。以来、変革への取り組みを続けています。
ESG経営では人的資本など「見えない資本」をどう有効活用しているかが厳しく見られていますが、当社は早くから従業員エンゲージメントに注目し、データを取り、診断し、改善するサイクルを回しています。
川内 当社はそのお手伝いをしているのですが、さまざまな切り口でデータを取って、企業変革の進捗や成果を見える化されていますね。