エンゲージメントの高さと
企業の業績はリンクする

白井 一つの成果として、エンゲージメントスコア(従業員の会社に対する貢献意欲を表す指数)の向上に従い、営業利益、営業利益率、ROE(自己資本利益率)も上がっているというデータがあります(図1参照)。統合報告書でも18年から人的資本に関する投資について開示しています。日本企業で人財投資について見える化したケースはまだそう多くはありません。

川内 従業員エンゲージメントとROEが見事に連動して上昇し、12年から20年で株価は5倍になっていますね。

岩本 いまや世界中でエンゲージメントと業績に相関があるというエビデンスが蓄積されています。日本では、私の研究室がリンクアンドモチベーションと共同研究しました。経済産業省の人的資本の研究会でもエンゲージメントは注目キーワードで、私たちの研究も取り上げられています。

慶應義塾大学大学院経営管理研究科
特任教授
岩本 隆
Takashi Iwamoto

白井 相関があるという話は、当初は半信半疑でしたが、実際にファクトとして具現化されたことを実感しています。風土改革自体は15年から開始し、人事戦略、働き方、ダイバーシティ、業務プロセス、マネジメント改革など全部で30以上の施策を打ってきました。全部門の現場力と、モチベーションアップなどの働きかけ、組織変革とが相まって、最初の弾み車が回るまでが一苦労でした。社長の平岡も社内外で常に変革推進の経営メッセージを発し続け、データを積極的に開示してきました。

川内 いろいろな声があったと思いますが、経営陣が強い信念を持ち、全面的にコミットしてやり抜いた結果ですね。これまで数多くの大手企業様のエンゲージメント向上支援をさせていただきましたが、経営陣のコミットの有無が成否を分かつと言っても過言ではありません。日本ユニシスでは、人事制度で、個人が複数の役割を持つROLE“S”という試みも始められましたね。

白井 ROLESは、多様な人々という多様性だけでなく一人の中の「個」の多様性を広げ組織やコミュニティとしての「知」のシナジーを生む試みです。個のスキルやコンピテンシーが多いほど、他者との関わりでイノベーションを起こし社会課題解決の活動に貢献しやすくなります。

川内 日本で導入が取り沙汰されるジョブ型の働き方では、一つの専門性に特化するのが一般的ですよね。

日本ユニシス
執行役員 人事部長
白井久美子
Kumiko Shirai

白井 専門力特化も大事ですが、個別技能間に壁を作らず、日本人の特長を活かし複数の役割や能力でつながり助け合い、社会的包摂性(ソーシャル・インクルージョン)を高めながら社内外の人と協働するイメージです。

川内 日本ユニシスの「多能工」としての能力開発が、働きやすさ、働きがいの拡充、ひいては従業員エンゲージメントの向上につながっているんですね。他の日本企業も、ようやくエンゲージメントの重要性に気づき始めています。

岩本 企業と従業員はこれまでいわば親子の関係でした。企業が従業員の面倒を全面的に見る代わりに、従業員は企業に一生を捧げ働く。高度成長期はそれでよくても、今後は対等の関係でなければやっていけない。そのときに従業員エンゲージメントが重要になります。エンゲージには婚約の意味もありますが、甘え合うのではなく、結婚前のワクワク感や、コミットし合うエネルギーが互いになければならない。企業と従業員の関係は、親子から恋愛関係に変わる大転換期だといえるでしょう。

川内 とはいえ日本企業にとって従業員との「対等」な関係というのは難しいですよね。

岩本 ただ、超有名企業でも人を採用しにくくなってきているので、変わらなければという危機感はあります。企業はこれまで以上に従業員をよく知り、ワクワクさせ、やる気を出させる施策を打たなくてはならない。それでこそ従業員も思い切りやる気を出せます。

川内 企業と従業員は、互いに努力し続けることで、維持・発展することができる。日本ユニシスの変革は6年で終わらず、やり続けている。「継続」は一つのカギですね。そして変わらなくてはならないという義務感より、ワクワク感をうまく醸成することも不可欠です。