「ワクワク感」と「継続」が
変革のキーワード

白井 まさに「ワクワク」は社長の平岡が頻繁に使う言葉です。ワクワクするビジネス、関係性、未来というような形で。MustではなくWant、どうすれば「ワクワクしてやらずにいられない」という内発的動機づけにつながるかを常に考え、議論しています。

川内 システム構築は失敗が許されない事業であるが故に、風土改革では難しさがあったのではないですか。

白井 システムが本番で稼働しないということは万に一つもあってはなりません。SIerが生業の企業では、重箱の隅をつつくようにバグを徹底的に見つけ出す組織風土が普通でした。いわゆる「レビュー文化」です。ただその価値観では、ワクワク感を持って新しいことに挑戦し、失敗を恐れずビジネス創出にチャレンジするのは難しい。

 この風土を改革するために「失敗の数は成功のKPI」と社長の平岡は言い続けてきました。失敗が多いほどその先に成功がある、どんどんチャレンジしなさい、失敗しても失敗から学びチャレンジし続ける勇気を賞賛する、というメッセージは社員に浸透しつつあります。レビュー文化から褒めてリスペクトする文化への変革は苦労しました。そうした背景もあってエンゲージメントスコアが上がってきたのです。

川内 いろいろな施策を実行していくと、良い影響と良くない影響、薬に例えれば効能と副作用が併存するものです。本来は日本ユニシスのように、データを取り、細かく見て調整すべきなのですが、経験と勘だけでやると失敗してしまう。

 GAFAなど、他社の成功事例をまねるのが全く駄目なわけではありませんが、日本企業ならではの事情もあり、自分たちの成功事例を創っていかなくてはならない。しかし多くの日本企業は、人的資本経営においてデータを活用しきれていないように見えます。岩本先生は、日本企業がどんなことに取り組むべきだとお考えですか。

岩本 ISO 30414にはシンプルな計算式の項目が58あります。それをデータ化するだけでいろいろ見えてきます。自社にとって重要な項目が見え、強化するポイントもわかりやすくなりますし、項目同士や施策との掛け算で、人的資本のROI(投資利益率)としての定量データがそろう。そうすれば、ROIを介してCHRO(最高人事責任者)がCFO(最高財務責任者)と議論できる。人材については定性的な情報だけだとなかなか議論が発展しませんが、「経営は人なり」が国際標準の裏付けのある数値で語ることができれば、経営会議や取締役会で、人事戦略についての議論をし、それを経営判断の根拠として使えるようになる。

 経産省でもエンゲージメント、ダイバーシティ&インクルージョン(受容)、リスキル(学び直しやスキルギャップをどう埋めるか)の三つの要素を中心とした人材活躍度調査に着手し、人的資本経営を根付かせる構えです。