父親を見返すために
家業の立て直しを決断
旭酒造の歴史は古く、前身の酒蔵が創業されたのは江戸時代の1770年である。その後、1892年に祖父が経営権を入手して桜井酒場と名前を変え、戦時中に米が統制品となったことで一度は廃業したが、終戦間もない1948年、桜井酒場を含む5つの小さな酒蔵が集まり旭酒造を設立した。父が2代目を継ぎ、私は祖父から数えて3代目に当たる。
私は大学卒業後、大手酒造会社で3年半営業を担当したのち、1976年に父が経営する旭酒造に入社した。その時は正式な後継ぎとして歓迎されたわけではなく、あくまで一社員という扱いにすぎなかった。
自分が後を継ぐかどうかはわからないにせよ、日本酒業界全体の売上げが縮小して旭酒造も低迷が続く中、家業をどうにかして立て直さなければという危機感は強く持っていた。しかし、父はそうではなかった。高度成長期の成功体験があり、真面目に同じことをやっていれば何とかなるという考えがあったし、自分の代で会社を清算すればいいという気持ちもあったのだろう。父とのすれ違いが続き、酒造りの方向性や経営方針をめぐって口論が絶えなかった。