日本的経営はもともと
人間関係論との親和性が高かった

編集部(以下色文字):人や組織の生産性を高めるアプローチには大きく、フレデリック W. テイラーが提唱した科学的管理法と、エルトン・メイヨーやフリッツ J. レスリスバーガーが説いた人間関係論があります。野中先生は人間的側面を重視する研究をされていますが、どのような背景があったのでしょうか。

野中(以下略):歴史を振り返ると、日本には戦後、米国のマネジメント手法が次々と入ってきました。私が会社に勤めていた1960年代、日本で一番人気だったのがダグラス・マクレガーのY理論と、レンシス・リッカートの連結ピンという集団ベースの人間関係論です。命令統制で管理するX理論に対して、Y理論はやる気を促して生産性を高めようとします。連結ピンは、少人数チームで活動し、時折チームリーダーが集まって方向性をすり合わせて組織全体の生産性を高めるのですが、その際にリーダーが連結の要になります。私は1967年にカリフォルニア大学バークレー校に留学しましたが、当時、チーム形式で連結ピンを実践する実験的な授業を受けたのを覚えています。

 XY理論の専門家、レイモンド・マイルズの授業では、期末レポートにソニーを取り上げました。『ソニーは人を生かす[注1]』の著者である小林茂は、ソニーの厚木工場に赴任した時、科学的管理法をやめて、自由度を与えてチームベースで意思決定の権限を与えるやり方を取ったのです。すると、品行の悪かった従業員が真っ当になり、著しく生産性が向上。1930年前後にメイヨーとレスリスバーガーが行った有名なホーソン工場実験と同じようなことが起こったのです。その頃、日本的経営が徐々に話題になりかけていましたが、このレポートは非常に評判がよく、「小林の施策はリッカートの連結ピンと非常に似ている」と講評されました。