短期主義の弊害を説く論調
HBRの2021年1-2月号には過去の多くの号と同様、短期主義(ショートターミズム)の弊害を訴え、近視眼を助長するとされる外的圧力から企業リーダーを守る方策を推奨する論考が、掲載されている。ところが、この種の議論はしきりに警鐘を鳴らす半面、実証的なエビデンスや経済学的なロジックに欠ける。しかもこのような議論に与する人々は、外部の投資家による監視がもたらす大きな恩恵や、外的圧力から企業リーダーを守る措置が犠牲にするものを見落としている。
HBRの読者は少なくとも40年前から、短期主義の危険について警告を受けてきた。ロバート・ヘイズとウィリアム・アバナシーは1980年の論文"Managing Our Way to Economic Decline"(経済衰退への道をいかに制御し発展に導くか:未訳[注1])において、企業マネジャーの近視眼は「競争力の著しい減退」の元凶だと説いた。マイケル E. ポーターも1992年に「投資システム改革への提言[注2]」を発表し、短期主義のせいで長期のR&Dプロジェクトに十分な投資がなされず、「諸外国、とりわけ日本やドイツとの対比において、米国の基幹産業の競争力が低下する」原因になったと論じた。
短期主義は以後の数十年間、予想されたような劣化や衰退を引き起こしていない。にもかかわらず、短期主義を誘発しかねない圧力から企業リーダーを守るべきだとする主張は、仮に強まってはいないとしても、根強く残っている。事実、この種の主張は長年にわたって、株主の権利を制限して企業リーダーを守る手段、具体的には買収防衛、取締役任期の分散、議決権種類株式(DCS)の導入、議決権の多い株式から少ない株式への交換などを擁護する主な理由とされてきた。