サプライチェーンの3条件

 ここ15年間、私はサプライチェーンの構築や改革に力を注いできたトップ企業60余社について、その内部から研究してきた。

 サプライチェーンとは、要するに製品やサービスを消費者にできる限り速く、安く届ける仕組みである。そのパフォーマンスを高めようと、ともかく最新技術に投資し、それでも不十分ならば、一流の人材を雇い入れてきた。

 また、業界内の各社が集まってプロセスの無駄を省き、技術標準を定め、共有インフラに投資するという例も少なくない。たとえば1990年代初め、アメリカのアパレル業界はQR(quick response)運動を始めた。欧米の食品業界にはECR(efficient consumer response)が、アメリカの外食産業にはEFR(efficient foodservice response)があった。いずれの活動も、スピードとコスト効率の向上が目的とされた。

 一般に、優れた効率性こそSCMの理想とされる。もちろん、目下の目標は、個々の企業の発展段階によって異なる。好況時であればスピードを最優先すべきであり、逆に成熟期には必死にコスト削減に努めなければならない。

 しかし、私は長年の研究のなかで、企業も研究者も見逃している根本的な問題の存在に気づいた。条件が同じであれば、ひたすらサプライチェーンの効率化に努める企業は、持続的な競争優位どころか、サプライチェーン全体のパフォーマンスを低下させる。

 サプライチェーンの効率性は全般的に向上しているとはいえ、たとえばアメリカで過剰在庫として値引き販売された商品の割合を見ると、80年には10%未満だったが、2000年には30%を超えている。また消費者アンケートの結果でも、同じ20年間で商品の入手に関する満足度がかなり下がっている。

 ウォルマート・ストアーズやデル、アマゾン・ドットコムのサプライチェーンが他を圧倒するほどの優位を誇っている理由は、どう見ても単なる効率の向上にあるのではない。研究の結果、総合的なパフォーマンスの高いサプライチェーンには、3つのまったく異なる特徴が揃っていることがわかった。