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シスコの歴史的規模の在庫処理
その日は、いまなおウォールストリートで語り継がれている。完全無欠を誇ったシスコシステムズのサプライチェーンの失態が報じられたのだった。
2001年4月16日月曜日、ネットワーク機器の最大手、シスコは投資家に大きなショックを与えた。約25億ドル相当の余剰在庫を廃棄すると発表したのである。アメリカ産業史上、最大級の在庫償却であった。
続く5月の四半期決算では、純損失が26.9億ドルに上ると公表され、その日のシスコ株は約6%も下落した。アメリカ経済のリセッションのスピードを見誤ったにしても、SCMの手本といわれた同社が、なぜ四半期売上高の約半分に相当する25億ドルも需要予測を読み違えたのだろうか。
当時、サプライチェーンの専門家たちは、シスコが導入した需要予測ソフトに批判の矛先を向けた。証券アナリストたちは経営陣の責任を糾弾した。しかし、いずれも的外れな批判だった。半製品の基盤や半導体が倉庫に山積みされた原因は、サプライチェーンを構成するパートナーたちの行動にあった。それは1年半前にさかのぼる。
シスコは生産設備を保有せず、EMS(electronic manufacturing service:電子機器受託生産サービス)に委託する。シスコ製品の需要はたえず供給を上回り続け、EMSは半製品を在庫として抱えてきた。これらサプライヤーにはインセンティブが与えられていた。そう、シスコは納品スピードに応じて報奨金を出していたのである。
EMS企業の多くは利ざやを稼ごうと、シスコと合意した価格を大きく下回るコストを実現するために、部品メーカーに必要以上に大量発注していた。下請けも孫請けも、在庫を増やして損はしない。残業にいそしむ彼らにすれば、シスコの目的など、どうでもよかった。
2000年度前半、需要が落ち込み始めると、シスコは在庫を急に減らせないことに気づいた。しかも、EMS企業に発注した生産量についても、またEMS企業が需要予測に基づいて実際に生産した量についても、確かなデータがなかった。EMS企業は、シスコは製造した全製品を買い取るものだろうと勝手に思い込んでいたのだ。
さらに、EMS企業や部品メーカーの役割分担とアカウンタビリティ(説明責任)について、シスコは具体的な規定を定めておらず、在庫はいたずらに積み上がっていった。要するに、同社のサプライチェーンが崩壊したのは、パートナーたちが揃いも揃って、シスコの利益、サプライチェーン全体の利益に反した行動を取っていたせいである。