マネジャーは「キャリアコーチ」の役割を
求められる

白井 会社と個人が「大人と大人」の関係を築くには、現場の従業員と直接向き合うマネジャーの役割がより重要になりますね。会社の戦略やそれを実行するために必要なスキルを従業員に伝えるのはマネジャーの仕事ですし、従業員一人ひとりが望むキャリアを聞き、助言を与えるのもマネジャーの役割だからです。

グラットン おっしゃる通りです。マネジャーには「キャリアコーチ」の役割が求められます。

 たとえば、「会社は戦略としてデジタル化を推進するつもりだから、あなたにはデジタルスキルを身につけてもらう必要がある。そのスキルを身につけるために、この学習プログラムを履修してはどうだろうか」と、道筋を示す役割です。

 企業として取り組むべきことは、マネジャーに過度な負担をかけることなく、そうした役割を十分果たせるようなナビゲーションツールを整備することです。従業員一人ひとりのスキルセットが可視化され、スキル習得に対応した学習プログラムもひと目でわかるようなツールです。

 マネジャーと従業員の面談内容を記録し、簡単に検索できるようにしておくことも大事です。マネジャーが交代しても、従業員に対して一貫性のあるコーチングができるようにするためです。

 従業員の成長を支援するのがキャリアコーチの仕事ですから、キャリア開発のために新しい仕事や異動先の可能性を示すことも必要です。その際に問題になってくるのが、マネジャーに優秀な人材を独占させないことです。

 優秀な人材を自分のチームから手放したくないと思うのは、マネジャーとしてある意味で当たり前のことですが、マネジャーが人材を独占することは従業員にとっても、会社にとってもマイナス面が大きい。従業員の成長機会を奪うことは、会社の成長性を低下させるからです。

 ある大手通信会社では、マネジャーの重要な役割の一つを「マネジャー・オブ・ピープル」と定義しており、自分のチームの従業員を他の業務セクションに異動させた実績があるかどうかが、マネジャーとしての評価項目に加えられています。

白井 個人にキャリア選択の機会を与えることは一見すると個人のためのようですが、実際には企業の成長や変革のエンジンになるということを、グラットン教授のお話を聞きながらあらためて確信しました。

 日本でも一部の先進的な企業は、新しい雇用システムとそれを支える一連の人材マネジメントの仕組みを導入しようとしています。これはトータルなエコシステムの変更であり、実現に向けてはいくつもの高いハードルを越えなくてはなりませんが、そうしたチャレンジを支援するのがマーサーの重要なミッションだと自覚しています。

グラットン 先ほどパイオニアの話をしましたが、雇用システムや人材マネジメントの変革によって、環境変化への対応に成功する企業が仮に2社現れるだけで、日本企業全体に大きなインパクトをもたらすでしょう。先進事例を模倣することが、学習の第一歩ですから。

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