何らかの答えを用意してあげられる医師でありたい

荒見 お2人がHAEに限らず、複数の領域で精力的に活動しておられることを本日あらためて知ることができました。どうしたら先生方のようにフロントランナーでいられるのか、大切にされている信条や、今後の医療業界がどのようにかわっていくべきかという点について、お考えをお聞かせください。

 DISCOVERYのような広範囲な取り組みは、国際的には盛んに行われています。HAEの領域でも、医療従事者間の国際的な連携があり、その活動はインターネットの普及によって加速されています。日本はいま、何とかそこに参加できている状況ですが、次の世代、あるいは次の次の世代には、日本が世界をリードできるようになってほしいと、私は夢を描いています。

堀内 私は日本の製薬会社に、もっとR&Dに目を向けてほしいと思っています。国内の研究所がどんどんなくなっていることは、非常に残念です。

 同感です。この20年ぐらいで、日本の製薬企業の研究力はかなり低下したと思います。いまはまだ利益が上がっているかもしれませんが、このままでは先行きはとても厳しいと思います。

 私は、自分が専門としている領域に関しては誰よりも深く考えることを意識してきました。目の前にいる患者さんのことはもとより、難しい症例や重症例について、その中に潜んでいる大切なポイントを見逃さないことを意識してやってきたつもりです。すると、ほかの人が気づかない、あるいは診られていない、いろんな情報を持った患者さんがたくさん目の前に現れてくれる。その一人ひとりを大切にすることで、いまの私があると思っています。

 10年先、20年先の日本の医療業界を考えると、大学にいる人をもっと大切にしないと持たないと思います。昔は、お金がなくても幸せでしたし、いろんなことができました。しかし、いまはある程度お金がないと、社会的に苦しいし、研究も難しい。日本の大学研究者は、虐げられていると思いますね。

堀内 おっしゃる通りですね。いまは企業も国も、「選択と集中」を考えてお金を落とそうとしていますが、それで新しい発見やイノベーションが生まれるとは思えません。いろいろな人が、いろいろな分野でチャレンジした結果、新しい発見が生まれるのだと思います。

 私はフロントランナーでも何でもありませんが、やはり好奇心を持って、人が当たり前と思っていることを当たり前とは思わずに研究し、今後もそれを継続していきたいと思っています。

 私は医学部長を4年間務めました。徐々に縮小されていく人件費の中で組織改革を進めながら得た信念は、この世界に「いないほうがいい人はいない」ということです。誰にも、必ず果たすべき役割はあります。ただ、その役割の果たし方は、人によって違う。だから私は誰かを切り捨てるのではなく、その人が役割を果たせるよう支援することが自分の役割だと意識していますし、これからもそれを大切にしていきたいと思っています。

堀内 私が大切にしたいのは、問題解決能力です。つまり、患者さんの困っていることや問いに対して、自分の専門でなくても何らかの答えを用意してあげられるような医師でありたいと思っています。DISCOVERYでの取り組みが、HAE患者さんの抱えている問題の解決に少しでも役立つことを期待しています。

荒見 異なる価値観、嗜好性があることを尊重し、チャレンジを促進すること、その結果として新たに創り出される発見や知見を社会に還元していくことの難しさは日々感じていますが、そのぶんやりがいも大きいですね。

 DISCOVERYの活動を通じて、診断されずに苦しむ患者さんとご家族の皆様に一日でも早く貢献していくとともに、このような活動をぜひ成功させ、拡大して参りたいと思います。

田尾 DISCOVERYの運営は小さい会社を経営しているようなもので、非常にやりがいがあり、難しくもあります。事業を計画・推進するプロジェクトマネジメントの力、世に発信するマーケティングの力、会計や法務の視点なども必要で、我々もオール・デロイトで取り組んでいます。

 本日、秀先生、堀内先生のお話を聞いて、あらためてDISOCVERYに取り組む意義や、代表理事としての熱意を感じることができました。この取り組みを通じて、人が病気を受け入れながら自分らしくいられるウェルビーイングの世界を実現することに貢献していきたいと思います。

 本日はお時間をいただきありがとうございました。