人間とAIの相互補完によって知能が拡張される

 ある金融機関から聞いた話ですが、その会社は数年前に大きな予算を投じて、不正検知のための最先端のソリューションを導入していました。システム開発は、グローバルなAML(アンチマネーロンダリング)のチームを持つ企業に依頼したそうです。しかしその後、DataRobotを使ってその金融機関の社員が約3カ月間、AIモデルにデータを学習させたところ、導入済みのソリューションよりもはるかに高い精度で不正検知ができるようになったそうです。

 このエピソードはAutoMLが持つパワーを端的に物語っていて、AutoMLは高度な機械学習モデルを自動的に生成し、量産できます。いろいろなアルゴリズムを並行して走らせて、一番性能がいいモデルのものを採用することができるし、開発のサイクルを速く回すこともできます。

 もう一つ、実運用に入った後、AIモデルがずっと同じ精度を出し続けられるわけではないので、モデルをチューンナップしたり、データを再学習させたりする運用管理が欠かせません。その重要性がまだ十分に知られていないのですが、そこでDataRobotのようにライフサイクル全体で統合管理できるプラットフォームが活きてくるし、先ほど馬場さんがおっしゃった通りAIを運用するオペレーターの存在が重要になります。

 いずれにしろ、いまご紹介した金融機関のようなユースケースがどんどん増えてくると、革命的な変化が起こるのではないかと私は見ています。

馬場 小さな革命はすでにたくさん起きており、それを大きなものにできるかどうかは、今後の我々の活動にかかっているともいえます。

馬場道生
DataRobot
ジャパンカントリーマネージャー

米国のリーディングAIテクノロジー企業の日本法人代表を歴任。Nuance Communications(2021年5月、Microsoftが買収で合意)ではコグニティブAIや生体認証AI、Ameliaでは対話型AIやハイパーオートメーションといった企業向けAIソリューションやプラットフォームの日本市場における認知と普及に貢献。約20年にわたり顧客企業とともにAIによる価値創出を実現してきた経験を持つ。2021年5月より現職。

 金融の分野に限っても、ある暗号資産(仮想通貨)取引所がDataRobotのプラットフォームで開発したAIモデルによって、アンチマネーロンダリングのシステムを高度化したケースや、中小企業向け生命保険に特化した生命保険会社が引受査定業務においてAI活用に取り組み始めたケースなど、コア業務にAIを活用する動きが広がっています。

 高度な意思決定にもAIを活用していくということですね。

馬場 「ディシジョンインテリジェンス」と我々は呼んでいます。AIモデルが予測した結果を鵜呑みにするのではなく、その予測を参考にしながらビジネスユーザーである事業部門の人たちや経営層が最終的な意思決定を行うということです。

 たとえば、ある自動車用部品メーカーでは販売見込みにAIを活用していますが、ステークホルダーの意志が介在し、予測の数値に影響を与えてしまう部分については、AIの予測をそのまま活用するのではなく、営業担当者の経験を活かし、人の予測を優先しています。

 一方、品目別の予測や物流センター別の予測といった部分ではAIの予測を優先することにし、必ずしもAIの予測に頼りきらないことで結果的に予測精度が上がっているようです。人間とAIが一緒になって意思決定をしていくという意味では、オーギュメンテッド・インテリジェンス(拡張された知能)という言い方もできます。

 小売業を例にするとわかりやすいですが、商品の仕入れ・発注はビジネスを左右する重要な意思決定です。従来は、経験を積んだバイヤーが市場動向や販売データ、気象データなどを見ながら需要予測を行い、仕入れる商品と発注量を決めていた。かつては「AIにバイヤーと同じことができるわけがない」といわれていましたが、いまはバイヤーを超えるような需要予測精度が出ることも珍しくありません。加えて、AIは人間のように注文する商品の番号や発注量の桁数を間違えることはありません。

 だったら、AIにすべて任せればいいかというと、そうではない。AIに依存しすぎると、別の問題が生じます。AIもミスしないわけではないので、そのミスを見過ごしてしまうと、損失が生じる。あるいは非倫理的な商品を仕入れてしまう可能性もある。AIの性能を信頼する部分と人間がチェックすべき部分をしっかりと把握し、AIと人の知能をうまく組み合わせながら意思決定していくことが大事です。

馬場 DataRobotのAIプラットフォーム上でも、ディシジョンインテリジェンスを強化する機能を実装しています。それは、AIの予測に対して、その会社や事業、プロジェクトにおけるさまざまなルールを加えてデザインした意思決定のフローを書くことができるツールです。今後はデータサイエンティストがつくったモデルに、ユーザーであるAIコンシューマーが自分たちの業務に適用するために必要なフローを書き加え、それを運用していくようになるでしょう。