リテール型思考と
ホールセール型思考

「おしなべて政治は地方のためにある」。これは、元下院議長のティップ・オニールが述べた有名な台詞であり、まさしく正鵠を射たものといえよう。

 とはいえ、話がリーダーシップとなると、まったく別物である。地元での草の根活動と人脈づくりは政治家に欠かせないスキルだが、一国家という目線から見れば、広範かつ包括的な重要問題を把握し、国民とコミュニケーションを図るスキルも同じく必要不可欠である。

 MSNBCの辛口の政治討論番組『ハードボール』の司会役を務めるクリス・マシューズは、これら一対のスキルをそれぞれ「リテール型」(小売業型)と「ホールセール型」(卸売業型)と名づけた。

 しかし、政界のリーダーのなかで、これら両方の能力に秀でているのは、ほんの一握りの者たち、たとえばフランクリン D. ルーズベルトやリー・クワン・ユーのような、きわめて有能な政治家だけである。

 ビジネス・リーダーにも同じことがいえる。ところが、現代の企業構造と市場特性から考えると、ルーズベルトのようなタイプのリーダーが求められ始めている。

 すなわち、担当する事業部門や職能部門、地域を運営できる、言い換えれば小売業に必要な抜け目のなさと同時に、企業全体、例えれば卸売業のように実効性の高いビジョンを掲げる能力を備えた男性や女性である。

 多くの企業には、リテール型のリーダー候補は十分すぎるくらい控えているが、ホールセール型のリーダー候補となるとお寒い限りである。ならば、前者のようなリーダーに企業全体の優先課題にも目を配るように叩き込めばよいということになるが、けっして一筋縄にはいかない。