リモートワークの定着で、企業の人材教育は難しさを増している。リアルな研修が開催しにくくなっただけでなく、部下が上司や先輩の活躍する姿を見て、「学び」を得る機会も減っているからだ。オンライン中心のワークスタイルに合わせた理想の人材教育とは何か。人材教育における「経験学習」の大切さを唱える北海道大学の松尾睦教授と、「人材のパフォーマンス向上」にフォーカスしたラーニングプラットフォームを提供するユームテクノロジージャパンの西尾夏樹氏が語り合った。

オンライン人材教育のメリット、デメリットとは

西尾:松尾先生は、企業の人材教育における「経験学習」の大切さを唱えておられます。コロナ禍以降、オンラインによる業務が日常化する中、「経験から学ぶ」機会は減っているように感じますが、現状をどのようにご覧になっていますか。

北海道大学大学院
経済学研究院 教授
松尾 睦

松尾:おっしゃるように、オフィスを離れて仕事をするようになったことで、現場での経験学習の機会が減っていることは実感しています。

 周りに上司や先輩がいれば、その活躍する姿を観察することで、仕事の成果を上げるための学びや気づきを得ることができます。その機会がコロナ禍で失われてしまったことは、大きなマイナスといえるでしょう。

 また、上司との接触や対話の機会が減ることは、「自分の働きや成長を、ちゃんと見てくれているのだろうか」という評価への懸念にもつながりかねません。その意味でも、リモートワーク中心の働き方が人材の育成に悪影響を及ぼす懸念はあると思います。

西尾:とはいえ、リモートワーク中心のワークスタイルは、コロナ禍が続く限り変えようがありません。コロナ後も、おそらく大きく後戻りすることはないでしょう。そうした中で、企業は経験学習に基づく人材教育を、どのように実践していけばいいのでしょうか。

松尾:まず、「経験学習」とはどのようなものかについて、簡単に説明しましょう。

 人間の成長は、70%がその人自身が直接経験したこと、20%は他者からのアドバイス、10%は読書や研修などで得た知識を得ることで促されるという調査結果があります。つまり、70%は直接経験、残りの30%は間接経験です。

 間接経験の割合は低いので、一見あまり重要でないように思えますが、上司や先輩のアドバイス、あるいは本や研修で学んだことを自分の仕事の中に取り込むことで、直接経験の質を高めたり、経験を「意味付け」することができます。

西尾:だからこそ、経験学習においては他者とのコミュニケーションが重要となるわけですね。

松尾:対面できない状況では、コミュニケーションが減るので、おのずと間接体験の機会も失われるのではないかと思われがちです。

 しかし、私はむしろ、いろいろと工夫をすれば、オンラインによるコミュニケーションのほうが経験から学びやすいのではないかと、最近考えるようになりました。

西尾:それは、なぜでしょうか。