松尾:リアルな職場だと、仕事ぶりが何となく伝わってしまうため、自分の経験をあえて言語化する必要はないですよね。それに対し、オンラインでは、いまどのような仕事をしているのかを振り返り、言語化せざるをえません。この「経験の言語化」が学習を促進するのです。
たとえば、オンラインによるコミュニケーションなら、週1~2回とか1回30分といった時間を設定し、ツールやフレームワークなどを使いながら、1on1による面談を簡単に行うことができます。対面と違って距離感があることで、客観的に仕事を振り返ることができます。
そう考えると、リモートワークが日常化したからといって、経験学習に基づく人材教育ができないわけではありません。ツールやフレームワークを上手に活用すれば、対面以上の教育効果が期待できる側面もあると思います。ただし、経験学習の原理を理解していないと、オンラインのコミュニケーションも空回りしてしまうでしょう。
「経験学習サイクル」を回して自発的に学ぶ力を養わせる

ラーニングコンサルタント
西尾夏樹
西尾:松尾先生は経験学習に基づく人材教育こそが、人材のパフォーマンスを向上させる近道であると強調されています。具体的には、どのような学び方をすればいいのでしょうか。
松尾:米国の教育学者であるデイビッド・コルブは、効果的な学習方法として、「具体的な経験をする」「振り返る」「教訓を引き出す」「応用する」という4つの「経験学習サイクル」を回すことを提唱しています。
たとえば、顧客への営業で商品やサービスの説明がうまくできなかったという「具体的な経験」(失敗)をした若手社員がいたとします。
それをただの経験で終わらせることなく、「なぜ失敗したのか」と振り返り、「相手の立場に立った資料をつくっていなかったからだ」といった教訓を導き出し、次の営業では、その教訓を踏まえて相手に伝わりやすい資料をつくるというサイクルを回すことが、パフォーマンスの向上や人材としての成長につながるわけです。
私は、このコルブの経験学習サイクルをもとに、さらに学習効果を引き出す「ストレッチ」(挑戦する力)、「リフレクション」(振り返る力)、「エンジョイメント」(やりがいを感じる力)の3つのサイクルを回すことを提唱しています(図表1を参照)。
ストレッチとは、文字通り、ちょっと「背伸び」をすれば手が届きそうな目標や課題にチャレンジすることです。無理をせず、少しずつ挑戦することが、成長への取り組みを長続きさせるからです。
「リフレクション」は、チャレンジした結果に対する振り返りですが、ここでは「失敗したこと」だけでなく、必ず「成功したこと」も振り返ることが大切です。「次にもっと成功するにはどうしたらいいか」と考え、より前向きにアクションを起こせるようになります。
また成功体験は、取り組んだことに「やりがいを感じる力」、つまり「エンジョイメント」をもたらします。その心地よさから、「自分の強みをもっと拡張しよう」というモチベーションが生まれ、自発的に学び続けようとする意識や行動が定着するわけです。
西尾:上司や先輩によるアドバイスなどの間接経験は、この3つのサイクルを回すうえで重要な役割を発揮するわけですね。