CEOの職務は計り知れない困難を伴う

 CEOは会社の命運について非常に大きな責任を負っている。にもかかわらず、その繁栄を、あるいは衰退を自分でコントロールできるわけではない。組織のだれよりも大きな権限を持ち合わせていても、すべてを望ましい結果へと導くことは不可能である。

 CEOに尋ねてみるとよい。それは一筋縄ではいかない仕事なのだ。その仕事の現実を知って、人々はさぞかし驚くことだろう。

 駆け出しのCEOとて同じである。ついに長年の目標へとたどり着き、キャリアの頂点に上り詰めたという喜びもつかの間、CEOの職務をこなすのは、予想をはるかに上回る困難がつきまとうことを思い知らされる。

 新任CEOはまず、知識と時間の不足を痛感させられる。不完全な情報があふれ、時間に追われ続けるなか、複雑極まりない未知なる領域で膨大な量の仕事を処理しなければならない。初めて経験する役割もこなさなければならず、従来の人間関係も変化する。CEOはこれら意表を突く事実に直面し、しかもその権力が大きければ大きいほど、それを行使することは難しくなる。

 いくつかは予想できたと見る向きもあるかもしれない。だが、リーダーとしてどれほど輝かしい経験を積んでいようとも、あるいは大規模な事業部門を率いた実績があろうとも、CEO職の準備としては十分ではない。

 我々は、大手企業の新任CEOたちに接し、彼らが直面する意表が大きく分けて7つあることに気づいた(囲み「ハーバード・ビジネススクールの新任CEO向けワークショップ」を参照)。これらをいかに早く認識し、受け入れ、立ち向かうかがCEOとして大成できるかどうかを左右する。

ハーバード・ビジネススクールの新任CEO向けワークショップ

 ハーバード・ビジネススクール(HBS)の新任CEO向けワークショップは、年商10億ドル以上の企業の新任CEOだけを対象としている。

 このワークショップは、社会を変革する力を備えたリーダーを育てるというHBSの教旨に沿って、数年前に設置された。その目的は、大規模かつ複雑な組織の新任CEOが抱える課題に対処することである。

 人数や構成を考えたうえで、大学側が対象者一人ひとりを勧誘し、多彩な業界から約10人を集めて開催するのが通例である。参加者は先進国の公開企業に所属し、次期CEOの指名を受けて就任を控えている、もしくはすでに就任して数カ月以内の人々である。

 このワークショップの開設以来、参加者は累計50人に上る。派遣元企業は、アプライド・マテリアルズ、ベルサウス、キャドベリー・シュウェップス、キャタピラー、ロイズTSB、ローズ、ノバルティス、シュルンベルジャー、UPS、ウォルグリーンなど、世界の先進企業が名を連ねる。

 先頃、初期のワークショップに参加した人々が集まって、CEOに就任してから現在までの仕事を振り返り、自分たちの課題について再確認した。ワークショップは参加者に独特の視点を与え、CEOを務めるとはどのようなことなのかについて予想できる事柄、できない事柄を含めて、多面的に探っていく。

 我々は参加者全員に事前にインタビューする。あらかじめ設定した質問項目に基づき、戦略、取締役会との関係、長期と短期の各課題について尋ねる。

 プログラムは2日間で終了する。また、新任CEOが初めて経験する役割に関する課題を扱うと共に、講師陣と参加者、参加者同士のディスカッションを重視している。

 1日目は、各参加者に任期終了時を思い描いてもらい、仮の退任スピーチの中身を考えるのが恒例となっている。続く2日目は、当面の課題についての説明を求めたうえで、いくつかの課題を詳しく検討する。

 具体的には、長期的な経済価値を創造する戦略をいかに立案するか、取締役会と生産的な関係を築くにはどうすればよいか、ステークホルダーとの効果的なコミュニケーションとは何か、好ましい社風を醸成するための秘訣はいかなるものかといった課題が挙げられる。

 ワークショップではディスカッションの比重がきわめて高く、そこでは各人の経験が色濃く反映される。

 本稿では、新任CEOを待ち受ける「意表を突く7つの出来事」について取り上げたが、いずれもワークショップで何度も挙げられる議題である。それぞれについて説明するうえで引いた具体例も、参加者たちの実体験、さらにはその体験からワークショップ全員が得た教訓に基づいている。

※ワークショップの企画・運営および本稿の準備に当たっては、リサーチ・アソシエートのパティア・マグラスの協力を得た。ここに謝意を示したい。

 意表を突く7つの事実に着目すると、CEOはもとより、さまざまな企業の幹部にとって、重要なリーダーシップの本質が浮かび上がってくる。