チームの良好な人間関係づくりも支援する
プロジェクトではチームメンバー同士の対立といったトラブルも発生しがち。経験が浅いプロジェクトマネジャーの場合、仲裁や説得ができず、途方に暮れてしまうこともある。
これも、プロジェクトが停滞する大きな原因の一つだ。
「チーム内の人間関係を良好に保つためのコミュニケーション能力やリーダーシップは、PMに欠かせない資質の一つですが、すべてのマネジャーがそれを備えているわけではありません。メンバー時代の実績や専門知識だけを買われてマネジャーになった人は、統率力が不足している場合もあります。PMOは、そうした悩みに関する解決策をアドバイスしたり、人間関係に苦しんでいるPMのメンタルをケアしたりする役割を果たすこともあります」と小林教授は説明する。
つまりPMOは、PMの過度の業務負担を軽減し、足りない経験は補ってくれる“参謀役”のような存在なのである。
そのため、一般にPMOのスタッフは、過去にいくつものプロジェクトマネジャーを経験し、チームを円滑に運営できるノウハウを備えた経験豊かな人材を任命するのが望ましい。
企業が新規事業創出やDX推進のためのプロジェクトを立ち上げる際には、最新のデジタル技術やビジネス動向などに精通した人材をプロジェクトマネジャーに抜擢するケースが多い。
もちろん、そうした知識は不可欠だが、小林教授は「PMには、取り組むテーマに関する知識だけでなく、チームをマネジメントするための知識や経験が求められます。とはいえ、現実的には2つを兼ね備えている人材を社内から探し出すのは困難。そこで、チームのマネジメントを側面から支援するPMOの役割が重要になるわけです」と語る。
言い換えれば、PMOがそれぞれのプロジェクトを側面支援する体制を整えることによって、企業の新規事業創出やDX推進は、前に進みやすくなるということだ。
社内リソースが足りなければ
外部サービスの利用も検討を
ただし、企業によっては自前でPMOを構築できるリソースやノウハウが整っていないこともある。小林教授は、「その場合は、外部の企業が提供する支援サービスを利用するのも方法かもしれません」とアドバイスする。
PMOを構築するための支援サービスは、コンサルティングファームなどが提供している。
業務を丸ごと受託するサービスもあれば、コンサルティングファームの担当者がPMOの立ち上げや運営をハンズオンで支援するサービスもある。
また、社内にPMOに配属させるにふさわしい人材がいない場合、外部から人材を紹介するサービスを提供しているコンサルティングファームもある。
小林教授は、こうしたPMO構築支援サービスを利用する場合の注意点として、「プロジェクトに関する社内情報をどこまで出せるかによって、提供を受けられるサービスの“深み”も変わってくるはずです。あまり情報を漏らしたくないのなら、自前でのPMO構築の検討を勧めます」と語る。
また、PMOに求められる役割とそのための方法論は時代とともに進化しているため、「“設置して終わり”ではなく、継続的な改善を提案してくれるサービスを選んだほうがいいでしょう」と指摘する。
ちなみに、日本のPMOは各プロジェクトの予算や作業の進捗管理など定型作業の支援が主な役割だが、欧米ではどのプロジェクトに誰をアサインするのが望ましいかという「人」のマネジメントまで行っている。
小林教授は、「日本のPMOにも、プロジェクトの進捗管理や知識の研修等に関わる受動的なヘルプだけでなく、PMの人事案作成など積極的なヘルプも求められるようになっていくかもしれません」と語る。今後もPMOへの期待度は増していくようだ。