ポイント①──小さくても、とにかく始める
同プロジェクトのキーパーソンは、CAFISを含むペイメント事業全体を統轄する栗原正憲氏(カード&ペイメント事業部長)と、Digital CAFISプロジェクトのリーダー、神保良弘氏(デジタルペイメント開発室長)だ。2人は、上記のような環境変化に危機感を持ち、ディスラプターを迎え撃つための実験場として、18年、同事業部内に「ペイメントイノベーションラボ」を立ち上げたのだ。
「外部のベンチャーからもエンジニアを招いた5人のスクラムチームです。アジャイル開発の手法を使い、フィンテック関連のアプリなどを開発しました。PoC(実証実験)ばかりで実ビジネスにはつながっていませんが、価値創造の手応えをつかむことができました」と栗原氏は振り返る。ラボで試行錯誤すること約1年。その成果をまとめて経営層にプレゼンテーションを行ったところ、社内の「デジタル特区」としての投資が承認され、19年1月に「デジタルペイメント開発室」が創設された。
19年といえば、バーコード決済が一気に浸透し、ペイメントサービス絡みのベンチャーが激増した年だ。見切り発車のような形でラボを立ち上げたことで、環境変化の大きな波になんとか間に合ったのだ。現在、デジタルペイメント開発室はスタッフ300人を抱える規模に成長しており、主に2つのプラットフォームの開発が進められている。1つ目のプラットフォーム「Digital Platform」は、従来ビジネス単位で縦割りにされていた事業運営プロセスやシステム、ツール群を新たなプラットフォーム上に統合する。そこで生み出されるさまざまな事業運営データを可視化、活用することで事業のパフォーマンスを最大化する。まさに自身をデジタル変革するためのプラットフォームである。2つ目のプラットフォーム「Omni Platform」は、購買活動のデジタル化に適したシームレスな接続や多様なチャネル、決済手段をワンストップで提供し、デジタルテクノロジーやデジタルデータを活用したペイメントエコシステムとして顧客の課題を解決するためのプラットフォームである。大切なのはこの2つのプラットフォームを開発する中で獲得できる新たな能力を活用し、これまでのビジネスモデルを変革し続けていく事である。
大企業においては、社内に前例のない組織を立ち上げることそのものが難しい。「思いを持ったマネジャー」が、覚悟を決めて実験的なチームを立ち上げたことが、この大きなハードルを越えるための重要なポイントだったことが分かる。