ポイント③──新旧組織が連携する「結合点」をつくる

 ただし、ただ新組織が独立して存在しているだけでは、ベンチャーと同じ土俵に立てるだけだ。「大企業のデジタル特化型組織」としての強みを発揮するためには、既存組織と「連携」し、固有のリソースを活用することが重要だ。独立しつつ連携する──。その鍵は、またしても「人」である。双方の特性を理解したリーダーが、両組織の結合点として連携の役割を担うのだ。

 本事例では、ラボの立ち上げから一貫してプロジェクトを引っ張ってきた神保氏がまさにそんな存在だ。神保氏のようなリーダーの有無が、大企業におけるデジタル変革の成否を分けるといっても過言ではないだろう。神保氏はこう語る。

神保良弘氏(NTTデータ デジタルペイメント開発室長)

「デジタル変革は重要ですが、ウォーターフォール的な価値観の顧客企業がまだまだ多い中、新しい価値観を押し付けるだけではビジネスがうまくいきません。それに、いくら価値創造だといっても、決済を扱う以上、セキュリティ面は絶対におろそかにできない。新組織を率いるリーダーには『絶対に失敗してはいけない部分』を見極める勘所が求められます。深化と探索、両利きの視点が必要なのです」

 こうした意識の下、新旧の連携が必要な局面では神保氏が自ら動く。だからこそ、独立型組織が伸び伸びと成果を上げられるのだ。また、変革を急ぐあまり、現実に利益を生み出している既存組織のマネジメントがおろそかにならないように配慮することも大事だ。そこで、事業部全体を統括する栗原氏は、既存組織向けにこそ、より丁寧なコミュニケーションを心掛けているという。両組織は役割が違うだけで、双方が会社にとっては重要な存在であることを繰り返し発信しているのだ。

 変革が軌道に乗ると、往々にして新組織にスポットが当たり、既存組織の士気が下がるという事態に陥りがちだ。しかし本事例では、既存組織のスタッフにも「自分に合った場所で適性を生かそう」という機運がむしろ高まっているという。

「苦労しましたが、『ペイメント事業全体の成長』という大きな目的を見失わずにいたことで、異なるビジネスモデルを分離しつつ共存させることが自然にできるようになったと思います」(栗原氏)