デジタル・トランスフォーメーション(DX)が日本企業の喫緊の課題である──。そんな認識が広く共有されるようになって久しい。しかし、デジタル化に経営資源をつぎ込んでいるにもかかわらず、「既存業務の効率化」以上の成果が出せないと悩む経営者は少なくない。中でも苦戦しているのが、既存事業の実績という強みがあるが故に、変革が後手になりがちな大企業ではないだろうか。デジタルを新たな価値の創出につなげるために、今、大企業は何をすべきか。大企業のデジタル変革の支援に長く携わってきたNTTデータ代表取締役副社長執行役員の山口重樹氏の近著『デジタル変革と学習する組織』における同社のプロジェクト「Digital CAFIS(デジタルキャフィス)」から、そのヒントを探る。(フリーライター 小林直美、ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)

「出島」から始まる大企業のDX

 大企業のデジタル変革の王道の一つは、デジタル特化型組織を、既存組織から独立した「出島」として立ち上げる方法だ。といっても「出島」にデジタル人材を集めただけでは変革は成功しない。山口重樹氏は本書で、出島を「全社改革の推進役」として機能させるためには、価値創造型の「アジャイルビジネス組織」へ進化させる必要があると語る。その実例として紹介されているのが、NTTデータ社内のデジタル変革の取り組みだ。

 変革の舞台は、NTTデータが40年近く運用してきた日本最大のキャッシュレス決済プラットフォーム「CAFIS(キャフィス)」だ。100万店以上の加盟店と、国内のほぼ全てのカード会社や金融機関をつなぎ、月間処理件数は9億件。この巨大システムの開発・維持・運用を手掛ける「カード&ペイメント事業部」で、2018年からスタートしたデジタル変革の取り組みが「Digital CAFIS(デジタルキャフィス)」だ。

 背景にはキャッシュレス決済の多様化がある。CAFISが発足した1980年代、キャッシュレス決済は「クレジットカードによる富裕層の高額決済」にほぼ限定されていた。しかし、EC市場の拡大とともに電子マネーやQRコードといった選択肢が増え、今では「誰でも、どこでも、少額でも使えて当たり前」になっている。これに合わせて、サービス提供側に求められることも「信頼性の高い処理の着実な実行」から、「消費者の体験価値を向上させるサービスの提供」へと軸足が移りつつある。

 特に大きな変化をもたらしたのはスマートフォンの普及だ。キャッシュレス決済に必ずしもカードが必要でなくなったため、カードの信頼性を保証するために緻密に築き上げたCAFISのバリューチェーンは、もはやペイメントサービスにおいて絶対不可欠ではなくなった。参入障壁が大きく下がり、新たなビジネスモデルを引っ提げた新興企業との競合が避けられなくなったのだ。