ポイント④──リーダー人材を核に、変革を全社に広げる
出島型組織から成果が生まれ始めれば、次の課題は全社展開だ。これまで見てきたように、変革の鍵を握るのはリーダー人材であり、全社展開においてもリーダー人材を核に、これまで見てきたようなプロセスを繰り返していくことになる。問題は、栗原氏や神保氏のような「両利き」の資質を持つリーダー人材は、自然に育つわけではないことだ。神保氏はこう語る。

「ウォーターフォールとアジャイル、あるいは深化と探索という2つの価値観を持つ人材を育成するには、どちらか一方の価値観を持つ人材を『リスキリング』して両利きにするプロセスが必要です。ただし、リスキリングの方向性は、既存から新規への一方通行だと思います。私自身が既存組織からデジタル組織へシフトした人間ですが、逆なら耐えられなかったでしょう」
『デジタル変革と学習する組織』では、著者の山口氏がこうしたリーダー人材を「リ・インベンションリーダー」と名付けて定義し、育成のための視点を示している。同時に、彼らが行うべきマネジメントをルールとして仕組み化することの重要性も指摘する。古い社内ルールに縛られたままでは、デジタルネイティブのベンチャーにスピード感で負けてしまう。大企業のデジタル変革には、社内に2つのビジネススタイル、2つのルールを並置させる覚悟が必要なのだ。
他社の成功事例を形だけまねても、決して自社のDNAにはならない。大企業が自らの強みを生かしながら、真に変革するためには、自社のビジネスを本質的に理解した上で、「なぜ、デジタル変革をしなくてはいけないのか」を腹落ちさせた課題感のあるリーダーの育成が肝になるのだ。