リテラシーギャップは日本の死活問題

邉見 近年、国際情勢の変化は目まぐるしく、国際的枠組みという観点でも、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)といった経済的枠組み、COP26に代表される地球アジェンダへの対応、米中経済対立という観点での経済安全保障など、既存の国家間の枠組みや企業の戦略論ではとらえ切れず、前提条件の見直しが迫られ、論点も複層化、多様化しています。

 加えて2022年は選挙イヤーでもあり、米国中間選挙、習近平総書記の3期目続投が焦点となる中国共産党の党大会、フランスやフィリピン、インドネシア、韓国では大統領選が行われ、秩序の枠組みが変わっていく可能性もあります。

 しかし、経済界を含めて日本では、地政学・地経学という視点はおろか、国際情勢そのものへの関心が下がっているように見えます。

 現に、日本人の海外留学生数は年々低下していますし、国際共同研究の比率も低い。対外直接投資は一定数あるものの、対内直接投資はGDP比で約5%(2020年)とOECD(経済協力開発機構)各国が同指標で2桁以上の中、最低水準です。この状況では、新しい見方や、異なる視点が入ってこない状況になりかねません。

 エネルギーや食料などの資源自給が難しく、ビジネスでも世界のバリューチェーンに組み込まれている日本のビジネスパーソンにとって、国際情勢リテラシーは死活問題であるだけに、非常に懸念されます。

船橋 リテラシーギャップはまさに日本にとって死活問題です。たとえば、人工知能(AI)の研究論文の発表数、被引用回数ともいまや中国が世界トップになっていますが、中国は英語の論文をAIを活用しながら徹底的に読み込むことで、研究力を急速に高めました。量子コンピューティングなどの分野でも、同じようなことが起きています。

 それに対して日本を含む民主主義国は、中国語の文献を十分に把握できていません。最近では、科学技術で自分たちが進んでいる分野ほど、中国の研究者は中国語の論文しか発表しないという動きがあるようです。これは、外国人に知らせていい情報と知らせてはいけない情報を明確に区分する中国共産党の方針と合致するもので、意図的にリテラシーギャップを広げているともいえます。

 こうした広い意味でのインテリジェンスの戦い、情報戦のリテラシーが日本に欠けています。政府も企業も、これをどう克服するかが今後非常に大きな課題になってくると思います。

邉見 中国は官僚国家の特質として、非常に多くの文書を作成しています。たとえば、対外投資報告書(「対外投資協力国別(地域)指針」)という1000ページ近くに及ぶ中国語のドキュメントを毎年発行していますが、EUやASEANといった地域単位、それぞれの国家単位でとても細かく分析しており、投資リスクなどを懇切丁寧に説明しています。

 仮にベトナムに進出しようと思えば、この報告書を読むだけで、リスクをかなり軽減できますし、投資をスムーズに進められる可能性が高まります。競争相手が何を考えているかもわかります。一方で、日本語や英語でそうした報告書は見当たりません。

 こうした点もリテラシーギャップを広げており、日本の公的機関や民間企業にとってはチャレンジングなポイントだと考えます。