「いま起こっている未来」をインテリジェンスで注視する

邉見 先ほど、日本は情報戦のリテラシーに欠けているとのご指摘がありましたが、私もその通りだと思います。

「戦術の前に戦略あり」という言葉がありますが、戦略のさらに前にあるのが情報戦です。情報戦の本質は、何が起こっているかを見定め、自分の立ち位置を冷静に見極めることです。これは国家の政策立案に限らず、企業戦略にも当てはまります。

 グレート・リセット後の世界、グレート・トランジション時代のレアルポリテークをどう見極め、日本の立ち位置をどのように定めるべきだとお考えになりますか。

船橋 アメリカの軍人はよく、「素人は戦略を語り、玄人はロジスティックスを語る」と言いますが、ロジスティックスを含めた統治というものが、日本はものすごく弱い。

 旧日本軍の「失敗の本質」はそこにありますし、福島の原発事故や今回のコロナ禍の対応もロジの弱さという点に問題の本質が集約されます。

 平時において有事への備えができていない、有事において平時と異なる危機管理体制を敷くことができない、政府も大企業も組織がタコツボ化・縄張り化していてリスクを過剰に回避する、リスクを引き受けてガバナンスを利かせるリーダーシップが存在しないなど、不作為の連鎖が統治の弱さにつながっています。

 たとえば、平時において「最悪のシナリオ」をつくったとしても、もしそれが漏れたら大変なことになる、バッシングを受けるかもしれない。「だったら、やめておこう」となってしまう。

 新型コロナワクチンがその典型ですが、日本は国産ワクチン産業体制を築くことができず、何の備えもしていなかった。だから輸入に頼らざるをえず、結果的に危機対応の選択肢を狭めてしまった。したがって、有事に泥縄で対応する以外ない。その繰り返し、要するに、泥縄貧乏に陥っているわけです。

 私は『21世紀地政学入門』(文春新書)で、「戦略は統治を超えられない」とのテーゼを掲げました。いかにあらまほしき戦略、ビジョンを描いたとしても、それを実現、執行できるだけのガバナンスが確立されていない限り、すべては画に描いた餅に終わる。

 ですから、グレート・トランジションの時代を生き抜くためには、政府も企業も有事に対応できるガバナンスのあり方を再構築することが求められます。

邉見 統治単位で言うと、国対国の競争だけでなく、地域軸や都市間の競争という視点も重要だと思います。

 中国を見る場合、国家資本主義という枠組みでとらえがちですが、省・市レベルで外交や産業政策を含めた独自の統治機能を有しており、省・市間の激しい競争が成長産業や有能な人材の輩出につながっています。そうした厳しい競争の末、世界の舞台に出てきた時には、非常に手強い存在になっている。これは連邦国家の米国と似ている構図です。

 こうした構図の中から、中国ではBATJ(バイドゥ、アリババ、テンセント、JD.com)が生まれ、米国ではGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック=現メタ・プラットフォームズ、アマゾン、マイクロソフト)が生まれました。

 グローバル競争をどう生き抜くかを考える時に、米中は競争を前提とした社会であり、国内での大競争を勝ち抜いたうえで世界のマーケットに出ているという構図を理解しておかないと、ゲームを見誤ることになってしまいます。その結果、すべてが後手に回って、競争相手が目の前に現れた時はすでに手遅れということになりかねません。このあたりも、まさにインテリジェンスとビジネスが直結するところです。

 いずれにせよ、危機が眼前に現れてから「こんなはずではなかった」と嘆くのではなく、「いま起こっている未来」を注視していく。そのためのアンテナ機能、インテリジェンスリテラシーを高めることが、日本のリーダー層に迫られているように思われます。

 それが、2022年以降の世界を「現実思考をもって生き抜く」ための条件であり、「世界情勢インテリジェンスの重要性」につながると考えます。