人間とAIのインターフェースが
今後の大きなテーマに

 フレームをどう設定し、どういうデータを使うかが肝心ということですね。経営者がAI活用をどう進めていくかという点で多くの示唆があるお話だと思います。特にデータについては、何から何までAIに学習させれば、いい答えが出るだろうという誤解は多くありますから。

森 正弥デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員 Deloitte AI Institute 所長

外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て現職。eコマースや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国のR&Dを指揮していた経験からDX(デジタル・トランスフォーメーション)立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。東北大学特任教授。日本ディープラーニング協会顧問、企業情報化協会常任幹事。著書に『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社、2010年)、『両極化時代のデジタル経営』(共著:ダイヤモンド社、2020年)など。

三宅 AIは万能ではありません。ストラテジーAIをつくったとしても、できるのは経営者のアドバイザー役までです。AIは細かい変動をけっして見逃しませんが、グローバルにどう変動しているかはわからない。現実問題はフレームで閉じているわけではないからです。

森 おっしゃる通りです。私はAIで株価予測をやったことがありますが、日々の予測や売り注文の誤発注の防止などは得意ですが、リーマンショックのようなグローバルな大変動を予測することはまだできません。

 三宅さんは今後、AIがどう進化していくとお考えですか。

三宅 いろいろな進化の方向が考えられますが、一つには世界モデル(エージェントを取り巻く環境のモデルを、観測から学習によって獲得する枠組み)を使って、将来予測が容易にできるようになると見ています。

 たとえば、都市のメタAIはその都市の世界モデルを持っています。これを使って、そこに人が集まったら何が起こるのか、特定の場所で渋滞が生じると何が起こるのかといったことをシミュレーションすることで、何らかの政策を実行する前に、その有用性を世界モデルで検証することが可能になります。

 世界モデルを適用すれば、人間の創造性や潜在能力をインスパイアすることも可能だと思います。たとえば、ゲーム開発において、ステージの設定やシナリオをどんどんAIに提案させて、人間が取捨選択していきます。

 これは企業経営にも活用できます。正確な一つの答えが出るまで意思決定を待つ必要はなくて、「こうなったら、こうなります」というシミュレーションやシナリオプランニングをAIにどんどんやらせて、経営者はその中から取捨選択すればいい。こうした協調こそが、人間とAIのハッピーな関係ではないかと思います。

 いまのAIは1980年代のPCと同じで、エンジニアがプログラミングしていますが、将来的にはGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)によって誰もが気軽にAIに触れ、自分のエージェントを簡単につくれるようなAIの民主化の時代が来るはずです。そのために、AIと人間のインターフェースの研究もどんどん進んでいくと思います。

 「コンピュータと人間」のインタラクションと、「AIと人間」のインタラクションは本質的に異なりますから、ヒューマンAIインターフェースが今後、大きなテーマになっていきそうですね。