ユースケースは「ゼロイチ」ではなく、
既存サービスの掛け合わせ
森 AIやデジタルを使っていろいろな企業をご支援する中で、我々にも「ユースケースの生み出し方を教えてほしい」という話が多く寄せられます。たとえば、データ基盤を整備して、Auto ML(機械学習の自動化)も導入したけれど、現場での活用が進まないといった悩みです。ユースケースを生み出すうえでのポイントは、何だと思われますか。

執行役員 Deloitte AI Institute 所長
外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て現職。eコマースや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国のR&Dを指揮していた経験からDX(デジタル・トランスフォーメーション)立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。東北大学特任教授。日本ディープラーニング協会顧問、企業情報化協会常任幹事。著書に『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社、2010年)、『両極化時代のデジタル経営』(共著:ダイヤモンド社、2020年)など。
益子 おそらく皆さん、0から1をつくるイメージを持たれていると思うのですが、何もないところからユースケースを生み出すのは、相当難しいと思います。楽天グループの場合は、70以上の既存サービスがありますので、「5G」×「既存サービス」という掛け算でユースケースを生み出すことができます。
それも一つのサービスではなくて、「5G」×「サービスA」×「サービスB」といった、複数の組み合わせでユースケースを考えることが多いです。さらにそこにパートナーの方々のサービスや知見も組み合わさってくるので、その掛け算で新しいサービスを創出します。
たとえば、損害保険のサービスでは、台風などの自然災害で一般住宅の屋根部の損害を想定した、ドローンによる高所損害のリアルタイム調査に向けた実証実験を行っています。ドローンで屋根部を撮影し、その映像データを5Gで飛ばして、鑑定人が損傷度合いを遠隔地から確認し、リアルタイムで鑑定結果を伝えるといったユースケースです。楽天グループには、ドローンを取り扱う事業もありますし、損害保険事業もあるので、両者のコラボレーションで生まれたユースケースです。
田中 異なるサービスや知見を組み合わせて、そこに新しい技術を掛け合わせることで、100、200とアイデアを出していって、最終的に1つ、2つに絞り込んでユースケースをつくっていくのがポイントだと思います。
益子 大きく分けると、5Gがなければできないものと、5Gだったらもっとよくなるものの2つがあって、前者を考えるのはなかなか難しいです。既存の課題を5Gで解決するほうが割と考えやすいと思います。前述の通り、楽天グループには70以上のサービスがありますから、いろいろな可能性を現場の人たちと議論していく中で、ユースケースにつながることが多いですね。
森 ユーザーの体験価値を考える時、重要なのはリアルやバーチャル、オンラインとオフラインといった違いに関係なく、また、カスタマージャーニーで顧客接点を持つ複数の企業が、ユーザーにとって本当にいい顧客体験をシームレスに提供していくことです。
5Gは、顧客体験をシームレスにつなぐうえで、今後大いに貢献していくと考えられます。そうしたシームレスな体験価値を提供していくためにも、複数の企業による共創が欠かせません。最後に、パートナーシップの組み方、エコシステムのつくり方について、お二人の考えを聞かせてください。
田中 楽天グループの場合、コアとなるビジネスが楽天市場で、これはまさにパートナーシップで成り立っています。出店店舗様と楽天の担当者(ECコンサルタント)が一緒にショップをつくり上げて、お客様に商品・サービスを提供していく。パートナーシップでビジネスをつくるカルチャーは楽天グループの強みだと思いますし、そうしたカルチャーがエコシステムをつくっていくうえで大きな役割を果たすのではないでしょうか。
益子 我々とパートナー、そしてユーザーの三者がすべてハッピーでなければうまくいかないというのは、長年にわたりB2B2Cのビジネスをやってきて身に染みています。「三方よし」ではありませんが、三者がみんなハッピーになれるパートナーシップという原則は、けっして崩してはいけないと思います。