顧客のニーズを正しくとらえるために

 アントレプレナーシップの基本的な教えでは、イノベーションとはアンメットニーズ(unmet needs)すなわち「まだ満たされていないニーズ」を突き止めて満足させることだ。顧客は既存品と比べて、よりよく、より早く、より安く問題を解決してくれる製品やサービスを求めている。ところが、精査能力で名高いイノベーターや組織でさえ、そうしたニーズに気づき、正しく解釈するのに手こずることが多い。

 アマゾン・ドットコムの例で考えてみよう。同社は顧客中心に考える「カスタマーオブセッション」であろうと決意しながらも、別の顧客基盤である販売店のニーズが見えていなかった。加盟店に対して手数料をしぼり取り、他の販売業者やアマゾン自身の類似品との競争を強いて、オンライン店舗のカスタマイズに制限をかけ、選べる決済手段を限定した。

 ショッピファイは、販売店が自分たちでオンラインストアを立ち上げ、顧客との関係性をコントロールし続けられるようにする、使いやすく手頃な価格のツールを一式引っ提げて参入した。アマゾンが軽視してきたニーズに対応しただけで、2021年にショッピファイの正味売上高は46億ドル、時価総額は1710億ドルに達した。