
マネジャーは、自身のチームに最適な人材を残したいと考えるが、マネジャーに束縛された人材が離職するリスクはかつてないほどに高まっている。そこで、特定のチームではなく、どこのチームや部署であっても企業内に人材を留める、リテンションマネジメントの再構築が組織にとって急務となっている。本稿では、従業員のキャリアや配置を積極的に支援する制度や、マネジャーの評価制度のあり方を提示する。
マネジャーは人材採用とリスキリングの負のループに陥っている
マネジャーにとって試練の時代だ。日々の業務と並行して、多くのマネジャーがチームの再教育(リスキリング)と人材採用という終わりの見えないサイクルに直面している。リスキリングの必要性は、新しい話ではない。OECDの推測によると、今後10年で11億人分の仕事がテクノロジーによって激変する。しかし、マネジャーはいままさに、パンデミックによる退職への対応と同時に、スキルのギャップを埋めることを求められているのだ。
ガートナーの調査では、離職率はこれまで企業が経験してきた水準より50~70%高くなると予想される。さらに、必要な人材の採用に要する時間が、新型コロナウイルス感染症のパンデミック前より18%長くなっていることが問題を深刻にしている。
マネジャーへの圧力はますます高まり、コストが高く、競争の激しい市場で新しい人材を探すために、ただでさえ不足している時間を取られている。その努力を人材の維持(リテンション)に向けなければ、業績を向上させて変化をもたらすことはできないだろう。リーダーは、マネジャーが人材を維持しながら成果を上げられるように、行動を起こさなければならない。
制約されたキャリアから再構築されたリテンションへ
マネジャーが動的な市場環境で舵を取っていることは間違いないが、人々が退職を考える主な理由の一つは変わっていない。すなわち、キャリアアップができないことだ。先述のガートナーの調査によると、従業員の65%が人生における仕事の役割を再考している。ただし、その解決策として社内の機会を利用することに前向きな人は、わずか3分の1だ。
多くの人は、みずからの役割に対する意識が希薄であり、マネジャーのサポートが足りないと感じている。そこで「スクイグル」、つまり役割を変えながらさまざまな方向を目指して成長するより、退職したうえで成長を目指すほうが簡単になっている。
この課題に対しては、従業員に協力的なマネジャーでさえ、厳しい選択を迫られることになる。マネジャーが従業員のキャリア開発に時間と労力を費やすことは、マネジャー自身が従業員から評価される際の指標と相反することが多い。これを裏付けるように、マーサーの調査では10社中8社が個人の目標に焦点を当てているのに対し、事業部門の目標に向かって努力することを重視しているのは10社中5社だけだということがわかった。
個人のパフォーマンスを最適化しようとするマネジャーは、従業員に対して縄張り意識を持つ可能性がある。つまりチーム内に「最適な」人材を維持して、最高の結果を出すというわけだ。ただし、このようなアプローチは、個人のキャリア開発や組織の人材活用を損ねることが少なくない。そして、マネジャーが最も引き留めたい人材が束縛を感じて退職する可能性が高くなり、当初守りたかった業績指標を危険にさらしてしまう。
こうしたキャリア開発の矛盾を解決するヒントは、リテンションマネジメントの見直しにある。マネジャーは次の3点で助けを必要としている。
まず、キャリアに関する会話の焦点を昇進から向上に変えて、さまざまな方向に発展させること。次に、キャリアの実験を支援する文化や仕組みをつくること。そして、自分のチームで人を維持することではなく、組織全体で人材とそのポテンシャルを維持することによって、マネジャーが評価されることだ。
以下の3つの解決策は、マネジャーがチームを超えて成長を支援し、優秀な人材が働き続けようと思うことにつながる。