SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の取り組みを進める日本企業は増えつつあるが、達成のためには全社的な取り組みが欠かせない。従来のCSRとは異なり、実ビジネスそのものの変革が求められており、社外とのコラボレーションが重要となることは、書籍『パワー・オブ・トラスト』でも指摘されている。特に、専門的な知見を持つNPO/NGOとの関係性構築は大きなテーマだ。日本企業はこれまでNPO/NGOとの接点が少なかったが、こうした状況を変えるにはどうすればよいのか。国際的な自然保護活動に取り組む世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)の山岸尚之氏と、デロイト トーマツ コンサルティングの山田太雲氏が語り合った。
第1回 「三方よし」に込められた切実な思い――企業が信頼される条件を近江商人から学ぶ
第2回 Jリーグ改革を支えた「天日干し経営」とは──
企業にとってSDGsが「自分事」になってきた
──SDGsは、企業の間でも着実に浸透しつつあるように見えます。
山岸 気候変動問題について言えば、2015年のパリ協定から7年ほどが経過し、国際的なルールメイキングはほぼ一段落しました。本格的な実行フェーズに入ったといえるでしょう。私が所属するWWFは、野生生物や生物多様性を主要なテーマとして活動してきました。生物多様性については、2022年12月にカナダ・モントリオールで開催されるCBD COP15(生物多様性条約第15回締約国会議)で、「ポスト2020生物多様性枠組」がまとめられる見込みです。生物多様性についても実行フェーズに移行しつつあると思っています。

Naoyuki Yamagishi
WWFジャパン 自然保護室長
1997年に立命館大学国際関係学部入学。2001年マサチューセッツ州ボストン大学大学院で国際関係論・環境政策の修士プログラムに入学。2003年5月に同修士号を取得。卒業後、WWFジャパンの気候変動担当オフィサーとして、政策提言・キャンペーン活動に携わるほか、国連会議での情報収集・ロビー活動などを担当。
山田 私はコンサルタントとして企業のSDGs活動を支援する立場ですが、企業のマインドや活動内容もかなり変わりました。以前はCSRの一環としてNPO/NGOに寄付をする、社員をボランティアとして派遣するといった取り組みが主でした。ただ、従来型のアプローチではSDGsの17のゴールに対応できません。特に気候変動は、産業などによって濃淡はあるものの、自然災害の増加などを通じて自社の企業活動にも大きな影響を及ぼします。早いうちに手を打たないとビジネスが立ち行かなくなるかもしれない。SDGsを「自分事」ととらえる企業が増えてきました。
──企業とNPO/NGOの関係性も変わりつつあるのでしょうか。
山岸 NPO/NGOの立場からすると、企業に対する姿勢はあまり変わらないように思います。企業のさまざまな取り組みをチェックし、その結果に基づいて批判する。企業にとっては、ある意味で「うるさい存在」であり続けることは大事な役割です。ただ、それだけでは問題解決が難しい領域も多い。たとえば、脱炭素などの施策で、企業と協業することもあります。
山田 脱炭素を例に取っても、企業が従来の延長線上で行う対策だけでは不十分です。事業部を巻き込んだ、企業全体の変革が求められています。その変革に向けた戦略策定、その実行に当たってはさまざまな分野の深い専門知が欠かせません。その知見を最も蓄積しているのが、NPO/NGOだと思います。