ルールメイキングに企業が参加することの意味

──そうすると、企業とNPO/NGOの協働は、自然な流れということになりますね。

山田 ただ、NPO/NGOと前向きな関係づくりに熱心なのは、いまのところ一部の先進企業に限られています。ESG対応を掲げる企業においても、温暖化問題の解決というよりも、「NPO/NGOに批判されないこと」を実質的なゴールとしている場合が多いのではないでしょうか。「気候変動を止めるために何が必要か」ではなく、業界平均をベンチマークにしようとするケースも目立ちます。こうした企業は、NPO/NGOからは「本気ではない」ように見えます。これでは、なかなか対話になりません。「うるさい存在」という言葉がありましたが、企業は耳の痛いことを言われることにこそ目指すべき水準感やイノベーションのヒントなどの価値を見出す必要があります。「健全なマゾヒズム」とでもいいましょうか、企業はそうした姿勢をNPO/NGOに対して持つことが大事でしょう。

山田太雲
Takumo Yamada
デロイト トーマツ コンサルティング/モニター デロイト シニアスペシャリストリード

大手国際NGOで13年間「持続可能な開発」の諸課題に関する政策アドボカシーに従事。2015年の国連SDGs交渉では成果文書案の一部修正を勝ち取る。モニター デロイトではサステナビリティ潮流やステークホルダーの動向などについてインサイトを提供している。

──SDGsに関しては、企業に対する社会からの圧力も強まっています。

山岸 東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード改訂により、2022年4月からプライム市場上場企業に対して、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)レベルの国際的枠組みに基づく気候変動開示が求められるようになりました。あまりやる気のない企業でも巻き込まれるような制度ができたのは、非常に重要な動きです。国際的なルールメイキングについて触れましたが、これからはそれをテーマや産業に落とし込んだ具体的なルールづくりが求められます。そうした活動に、日本企業はもっと積極的に参加してほしいですね。

山田 欧州は国際的なルールメイキングを主導し、有利なポジションを確保しているとよく指摘されます。EUは国民国家を超えた人工的な市場であり、そのルールづくりには各国の政府関係者だけでなく、企業やNPO/NGOが関わっています。その議論において、NPO/NGOは社会課題解決に向けた厳しいルール、途上国の立場に立った公正なルールを要求します。その結果、EUスタンダードの質が高まり、途上国の人たちにとってもある程度納得できるものになるため、EUを超えたグローバルスタンダードの草案としても通用する場合が多い。産業レベル、企業レベルでも相似形の動きがあります。有名なところでは、森林の持続可能性や人権などに配慮したパーム油の基準づくりに、大量のパーム油を調達する欧州消費財大手とWWFなどが一緒に取り組んだ例があります。

──企業がルールメイキングに参加することで、社会全体のサステナビリティへの動きをリードしているのですね。

山田 欧州を中心に海外では、そうした事例がさまざまな場面で報告されています。そこには当然、持続的な成長を目指す企業としての戦略的な視点が含まれています。ひるがえって日本では、各官庁と業界団体主導のルールメイキングが主流というのが現状でしょう。「変わっては困る」と思っている人たちの声が大きく、コンセンサスもそちらに寄りがちです。結果としてルールの質は低くなり、国際的な場に提起すれば見劣りしてしまいます。