NPO/NGOとの間で成熟した関係を構築するには

──NPO/NGOにも多様な団体がありますが、その中のどこと付き合うかは企業にとって悩みどころです。

山田 大きく3種類くらいに分かれると思います。第1のグループは、その社会課題の根本的な原因を指摘し、解決に求められる社会像や政治的な原則を掲げます。第2のグループは起こり始めた社会変化の機運をとらえて、企業の行動を望ましい方向に誘う具体的な制度やルールづくりを推し進め、その過程で先進企業と戦略的に協働することもあります。第3のグループは企業の懐に入り込み、具体的なアドバイスを行い、技術的なソリューションを提供しています。

 ここで企業が陥りやすいのが、これらの流派を「急進派」「穏健派」などに分類し、より付き合いやすそうな「穏健派」とのみ関与しようとすることです。実際には、これらの異なるNGOの流派は、問題解決に必要なさまざまなアプローチの間の「分業」的な関係にあることを認識すべきです。

 確かに急進派の声だけでは、課題を引き起こしてしまっている企業から具体的な変化を引き出すのは難しいことが多く、より穏健かつ現実的なアプローチをとるNGOの活動のほうが効果的なように見えます。しかし、急進派が問題に対して声を上げ、企業側のいい加減な取り組みに常に批判を加えることをしなければ、そもそもそこに変革の機運は生まれず、企業が「穏健派」の話を聞く動機すら発生しないということもまた事実。すなわち、穏健と急進の双方があって、物事が前に動いているのです。そして世界の先進企業は、具体策は穏健派と相談しつつ、許容可能なアプローチや長期的に求められる水準感といった“方向感覚”は、急進派との対話で鍛えている、というのが実態です。

山岸 さまざまなNPO/NGOとの間で、企業はいかに成熟した関係を構築するか。一方、私たちは企業と一定の緊張感がある関係を持ちたいと考えています。おそらく、多くのNPO/NGOは同じ思いではないでしょうか。企業とのやり取りを通じて、NPO/NGO側が得られる知見も多いからです。

山田 そのコミュニケーションは、いつも心地よいとは限りません。物わかりのいい人同士のやり取りだけでは、とても突破できない巨大な課題に世界は直面しています。異質な者同士の「ザラつきのある」コミュニケーションに、私たちはもっと慣れるべきなのでしょう。相手から厳しい批判がいつ飛んでくるかわからない、そんな緊張感の中で、それでも信頼関係を維持しつつ一緒に新たなチャレンジができる。企業とNPO/NGOとの間で、そんな関係づくりが進展してほしいと思いますし、私もそんな現場に立ち会って、両者の関係構築を支援していきたいと考えています。

〈DTCからの提言 2022〉 パワー・オブ・トラスト――未来を拓く企業の条件
デロイト トーマツ コンサルティング 著

<内容紹介>
21世紀の企業経営は、格差拡大、地球環境問題、大規模災害、新型コロナウイルス感染症などの世界共通の危機が顕在化したことで大きく揺さぶられている。また、労働環境の劣悪さやサプライチェーンの脆弱性から「企業に対する信頼」が一夜にして崩れる例は後を絶たない。企業経営は「信頼に足る行動を伴うかどうか」で判断されるのだ。 「信頼できる企業」と認めてもらうには、「あまねくステークホルダーの期待に応えるための事業運営ひいては企業経営を行う」というきわめてシンプルな原則を組織に浸透させるしかない。そこで本書は、戦略、事業モデル、顧客接点、サプライチェーン、ファイナンス、IT・デジタル、組織・人材などの機能別に、「信頼される企業経営」を導くための方法を60点に及ぶチャートと共に解説する。