ビジネスとしての持続可能性をいかに両立させるか

──日本企業全体の動きを見ると、スピード感がまだ足りないようですね。ただ、先進的な事例も増えつつあるのではないですか。

山岸 WWFは環境対策に積極的な世界中の企業とのコラボレーションにより、クライメート・セイバーズという温室効果ガス削減のプログラムを推進しています。日本では2000年代半ばから、ソニー(現ソニーグループ)が参加しています。企業はCO2削減目標を掲げてさまざまな施策を実行し、WWFがそれをチェックして一定の評価を与えるという仕組みです。いまではSBT(Science Based Targets)が一般的になっていますが、当時はそうした国際的なスタンダードがなかった時代です。その後、ソニーは2015年に日本で最初にSBTの承認を受けています。

山田 クライメート・セイバーズに参加する時、ソニーとしては一定のリスクを検討したのではないかと思います。そのリスクを克服できた理由について、山岸さんはどのように考えていますか。

山岸 担当者間、そして組織間の信頼関係でしょうか。ソニーとはクライメート・セイバーズの以前から、小さなイベントなどを一緒に開く機会がありました。お互いにパートナーとしての信頼度を試すような機会が何度かあったことで、安心して踏み出せた面はあると思います。

山田 WWFは、持続可能な水産物の普及に国内小売大手と連携していますね。

山岸 養殖水産物の分野では、水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)によるASC認証という国際的な制度があります。認証に際しては、自然環境への配慮や労働者や地域住民との誠実な関係構築が求められます。日本人はサケを大量に消費しており、その相当部分がチリをはじめとした海外からの輸入です。そのため、チリと日本のWWFが協力し、チリの養殖事業者のASC認証取得を支援しました。日本人が地球環境に与える負荷を減らす取り組みは、国内に留まりません。養殖事業者にとって、販路は非常に重要であり、市場に近い側からの働きかけが有効です。そこで、日本の小売業に対して、チリ産サーモンの持続可能な改善を求めてきました。別の事例ですが、インドネシアのエビ養殖では、現地からエビを調達する日本生活協同組合連合会と協力し、ASC認証取得を目指す養殖業改善の取り組みを行っています。

──ASC認証を受けたサケやエビが広く市場に出回るためには、ビジネスとしての持続可能性が問われます。

山岸 正直、課題はあります。認証取得にはコストがかかりますが、それによっておいしくなるわけではない。正しく価値を伝えられなければ、一般の消費者からは、「単に高いだけ」と見えてしまうでしょう。

山田 WWFのようなNPO/NGOは、サステナブルな商品が多く流通するような社会的な環境をつくりたい。一方、企業はサステナブルな商品を多く販売して実績をつくりたい。双方が目標に近づくためには、遠回りかもしれませんが、消費者教育は欠かせないように思います。