無形資産の価値評価は究極の目標

 社員に自社のミッションやビジョン、価値観を理解させ、これらを納得させられる企業文化に、いったいどれほどの価値があるのだろうか。

 ナレッジ・マネジメント・システムや顧客データベースの再構築に投資すると、どれほどの見返りがあるのだろう。全社員のスキルを向上させることと、少数の要職者のスキルを向上させることのどちらが重要だろうか。

 このような無形資産の価値を測定することは、企業会計が追い求める「究極の目標」である。社員のスキル、ITシステム、そして企業文化は、多くの企業にとって有形資産よりもはるかに大きな価値を秘めている。

 なぜなら、金融資産や有形資産とは異なり、無形資産は競合他社が容易に模倣できないものからだ。それゆえ、無形資産は競争優位を維持するうえで強力な源泉となる。もし無形資産の価値を見積もる方法があれば、経営幹部は市場における自社の競争力を測定し、それを管理することがより簡単かつ正確にできるようになる。

 しかし、それは「言うは易く、行うは難し」である。金融資産や有形資産とは違って、無形資産の価値は判断する人によって異なる。

 たとえば油田の価値は、小売企業にとっても、また油田探査を実施する石油会社にとってもほぼ同じである。なぜなら、どちらの企業も必要ならば即座に油田を売却できるからである。しかし、顧客サービスの向上や顧客満足度に敏感な社員は、石油会社よりも小売企業にとってはるかに価値が高い。

 さらに無形資産は、それ自体で価値を創出することはほとんどない。その他の資産と組み合わせる必要がある。たとえばITに投資する場合、教育研修とインセンティブ・プログラムによって補完されなければ、ほとんど価値は生じない。

 逆に、人的資源への投資として研修を施した場合も、現代的なITによるサポートなくして、やはり価値は生まれてこない。つまり、もし企業の潜在能力を十二分に発揮したいと願うならば、人材やITへの投資は戦略と一体化させ、整合させる必要がある。

 実際、人事部門とIT部門を組織的に分離すると、双方の専門分野であつれきが生じるのが普通だ。人事部門は社員研修を増やすべきだと主張する一方、IT部門は新しいハードウエアとソフトウエアを購入すべきだと陳情するといった具合である。