倉田 私たちも多くの企業を支援する中で、医療現場のニーズを把握するのが難しいという声をよく聞きます。順天堂の臨床力を活かして現場のニーズを把握できるのは、GAUDIの大きな強みだと思います。

 また、研究の成果をどう社会実装していくかという点に課題を感じておられるアカデミアの方もいらっしゃるでしょうから、社会課題の解決という一つの目標に向かってアカデミアと企業をマッチングされているGAUDIの取り組みは、すごく意義深いと感じます。

飛田 アカデミアと企業の産学連携研究は以前から行われてきましたが、両者の言語の違いといいますか、文化やマインドセット、求める成果に対する視点の違いといったものが、時として共同研究を進めるうえでの障害になることがあります。

 GAUDIでは、奈良先生のように、もともと企業におられて、さらにアカデミアの支援にも長く携わってこられた方がいらっしゃるので、両方の言語を理解しながら共通の目標に向かって進めるようにコーディネートしています。

奈良 開発シーズを実用化、社会実装するには、特に日本では、製品化を実現する過程で企業の力が必要になりますが、アカデミアの研究者が「実用化を目指して研究するんだ」と思っても、社会的な課題やニーズと本当に合致しているのか、製品化する側である企業の論理をそれらが遡及するだけのものなのか、確認するのは簡単ではありません。

奈良 環Tamaki Nara
順天堂大学
特任講師 MBA
革新的医療技術開発研究センター
医学部附属順天堂医院 臨床研究・治験センター 研究開発企画室
ネットワーク推進ユニット“Highway Star”ユニット長

アナログからデジタルへの大きな移行期であった1990年代終わりより約15年間以上、大手光学機器メーカーで画像、カメラ、医療機器・ヘルスケア製品等の新規製品開発企画および市場開拓に従事。2010年代半ばから、医師と企業の実用化研究開発プロジェクトのマネジメント等、さまざまなプロジェクトの実用化支援に従事。この間、アカデミアと企業の協働の場のメカニズムに注目したイノベーションマネジメントについて研究を実施、現在に至る。

 そこで、共通の言語で話せる場、共通の価値観や視点を持つための場を用意し、場における「知的翻訳人材」を機能させすることで、互いの理解が深まり、共振、共鳴が生まれます。それが、インキュベーションの出発点になると私たちは考えており、(東京・御茶ノ水の)順天堂大学新研究棟に設置したGAUDIのオフィスでは、研究者や企業の方の実用化への個別の課題解決向けたコミュニケーション促進やチームビルディングができるように、専任スタッフが調整役を担い、また、実用化促進のためのセミナーやシンポジウムを企画・開催しています。

倉田 さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが、共振、共鳴しながら大きな価値を創出できる場をつくり、それを縁の下で支えるのがGAUDIということですね。

飛田 立場は違っても、イノベーションを生み出していきたいという目標は同じですから、多様な組織や人たちが持つ開発シーズや課題解決能力を持ち寄って、1+1が3にも4にもなるような連携の場をつくっていくことが大事だと考えています。

グローバル視点で、インバウンド、アウトバウンドの研究開発も支援

倉田 国内でさまざまなインキュベーションの実績を積んでこられたGAUDIですが、さらにグローバルな展開も目指していこうというステージにあると理解しています。

飛田 研究開発をグローバルな視点で考えるのは非常に重要です。グローバルな研究開発を進めるには2つの方向性があり、一つはインバウンド、つまり海外のシーズを日本に持ってきて、実用化を目指すものです。

 海外のアカデミアや大学発ベンチャーが日本での実用化を目指す際に、GAUDIに相談いただき、我々が順天堂や他の医療機関での臨床試験、実証実験をアレンジするというケースが出てきました。今後、こうした活動をさらに増やしていきたいと思っています。

 もう一つの方向性は、日本の技術や開発シーズを海外へ導出するアウトバウンドです。これに関しても、GAUDIの活動に関する認知が広がる中で、日本の企業やアカデミアの先生方から相談をいただくようになりました。

 特に多いのは、ASEANを中心としたアジア地域での実用化を視野に入れた現地での研究開発のご相談です。我々もそこについてはまだ十分な知見を持ち合わせていないので、モニターデロイトさんをはじめとするGAUDIのパートナーと協力しながら、支援体制を強化していきたいと考えています。