奈良 ヘルスケア関連の分野などでは、日本より先を行っているアジアの国もあります。そういう分野ではむしろインバウンド型の研究開発によって、日本の社会ニーズに対応していける部分も大きいと思います。
波江野 そうですね。医療機器を例として考えた場合、一つの製品で解決できる健康課題は極めて限られていて、機器同士、機器と医療機関などがシステムとして全体がつながっていないと、患者さんにも、医療従事者の悩みにも対応できません。たとえば、ある患者さんが自宅にて急に体調が悪化した時、バイタル(生体)データを測定して救急隊に伝え、どの病院に行くべきかを判断する。病院側は現時点での患者さんの状態と既往症や過去の診断履歴など医療情報を総合的に分析して、最適な治療を施す。そうした設計がなされてはじめて、救える命が増えると言えます。
このように考えると、幅広い領域の専門家が集結している組織同士が国を超えて連携し、研究開発をリードしていく意義は本当に大きいと思います。
飛田 GAUDIの会員企業さんにヒアリングをする中でも、AROとAROが国を超えて連携することで、研究開発が大きく加速される可能性をひしひしと感じます。
医師と医師、病院と病院、大学と大学がつながっていると、得られる情報の量も質も、そしてスピードも格段に違ってきます。そうしたチャネルを確立できていれば、たとえば、日本で開発した医療機器をASEANのある国で展開していきたいといった時に、現地の医療従事者のニーズ、患者さんのニーズ、あるいは規制やルールといった情報を迅速に把握することができます。それを足がかりとした国際共同研究も進めやすくなります。
こうしたネットワークがあれば、企業としても事業化に向けた検討や精査がしやすいですから、アジアにおけるARO連携を積極的に進めていきたいと考えています。
現地での新規事業展開において、押さえるべき視点
倉田 モニターデロイトでは、海外展開のみならずヘルスケアにおける新規事業展開において重要な6つの視点を「MERITS」と呼ぶフレームワークとしてまとめています。これは、マネタイズ(ビジネスモデル)、エビデンス(証拠、客観的な事実)、レギュレーション(規制)、インサイト(利用者・関係者の価値認識)、テクノロジー、ステークホルダーズ(関係者の協調の座組み)の頭文字を取ったものです。
この6つのポイントを押さえるうえでも、飛田先生がおっしゃった大学間の国際連携が非常に有効に機能すると考えられます。
奈良 MERITSの6つのポイントは、企業の新規事業に限らず、アカデミアが新たに研究プロジェクトを立ち上げるうえでも共通するものだと感じました。資金を確保しないと研究を継続できませんし、利用者・関係者の価値を理解できていないと研究テーマも定まりません。
アカデミアの研究者が実用化に向けた研究に取り組む際にはアカデミアの先生方もMERITSを参考にされるといいかもしれませんね。
波江野 ありがとうございます。支援先の企業が立ち上げた事業を成功に導くこともそうなのですが、私たちとしては日本にある素晴らしいアセットを活かして、世界の国々の社会課題を解決していくことが、より重要なテーマだと考えています。
新興国での研究開発や事業化に挑戦する日本企業に我々がお伝えできることがあるとすれば、現地の社会や公衆衛生をよりよいものにしていくというゴールに向かって、課題解決に関心のある他のプレーヤーとともに、どうやって社会プロセスを変えながら、市場を創出していくか、ということです。そこまで到達できれば、結果的にビジネスがついてくるケースが多いといえます。
現地の社会課題を理解して解決につなげるために、GAUDIをはじめとしたアカデミア発のプラットフォームや大学・研究機関の国際ネットワークと組む。そういう発想が必要だと思います。