とはいえ、ジョブ型といっても、日本企業に導入する際は、米国企業に見られるような「ジョブディスクリプションに記載された業務以外は行わない」といった画一的な運用にならないような注意が必要だろう。
「野球に例えると、米国流のジョブ型雇用では、三遊間のゴロがヒットになってしまう可能性が高い。自分のテリトリー外はボールを取りにいこうとしないからです。一般に日本企業ではサードとショートが積極的にボールを取りにいきます。その結果、視点や知識、経験などが異なる2人のコラボレーションによって思いがけない解決策が生まれる。それが日本企業の強みになっています。役割の明確化に加えて、人事評価や目標管理など、現場でのマネジメントが重要です」
人事評価制度については、ポジションによってミッションや目標が異なるため、より従業員一人ひとりを細かく見て正しく公平に評価していく必要があるだろう。
「1on1ミーティングや、年度単位の評価・ランク付けを行わないノーレイティングを導入する企業が増えていますが、マネジャーが部下との対話を通して目標達成やキャリア形成などを支援し、フィードバックによって評価を補う形になっていくでしょう」
部下のキャリア形成や目指すポジション、課題などに寄り添いながら、能力を最大化することがマネジャーの役割となる。
キャリア形成や目標に応じて
必要なスキルを学ぶ時代に
人材育成についても、習得したいスキルや知識が従業員一人ひとり異なるため、より個別化が進んでいくと考えられる。
「人材育成の個別化が行き着く先は、オンライン学習プラットフォームを活用し、従業員が自身のキャリアプランや目標に応じて身につけるべきスキルや知識を考え、自律的に学ぶスタイルでしょう。多くの企業はまだ新卒一括採用が中心なので集合研修が機能していますが、これから経験者採用が増えていくと徐々に減っていく可能性が高い。たとえば、2020年に米国西海岸で人材育成の調査を行ったところ、ほとんどの企業が集合研修をやめていました。経験者採用の多い米国では、従業員の持つスキルや身につけたいスキルが多様化しているため、集合研修ではカバーし切れないからです」
デジタル・AI化など事業環境の変化に対応するため、職務に応じた従業員のリスキルの必要性が高まっていることも人材育成の個別化が進む要因。また学ぶことへのモチベーションを維持し、従業員が自律的に学ぶカルチャーの醸成にも力を注ぐべきだ。
職務の明確化に合わせて賃金制度の改革も求められる。
「職務が明確になると、その価値に応じた賃金の支払いを要求する人が増えるし、そうしないと公平感が失われます。ですから、年功序列型ではなく、職務の難易度や成果などに応じて給与を支払う賃金制度に変更すべきです。この時、考えておかなければならないのは外部労働市場との整合性です。適所適材が進み、外部からの採用が増加してくると、職務に応じた賃金が他社と比べやすくなる。他社に比べて賃金が低ければ、人材の流出につながりかねません」
これからは従業員が自身の市場価値をより強く意識するようになり、自律的に学んで成長できる企業を選ぶようになることも肝に銘じておきたい。
人的資本経営は「どうやって人材の価値を最大限に引き出すかという課題を経営者に突き付けている」と、守島氏。それを実践する人事制度への転換が急務だ。