企業のリーダーたちはいま、不確実性と複雑性に満ちた混沌とした時代におけるかじ取りを迫られている。このような時代に適応するリーダーシップとはどのようなものか。アビームコンサルティングの山田貴博氏はそれを、「価値共創リーダーシップ」と表現する。多様性から社会的価値を創出する、価値共創リーダーシップについて山田氏が提言する。

代表取締役副社長 COO
山田貴博 氏
いま求められている
リーダーシップのあり方
企業は生き物であり、環境変化に適応しながら進化し、生き残っていかなくてはなりません。環境が変われば、企業をマネジメントする経営のリーダーシップも変わるべきは自明の理です。
企業を取り巻く環境変化の不確実性は高まる一方で、それに伴って企業が抱えている課題もますます複雑化しています。そうした課題に対する解を一人の経営者が見出すのはもはや不可能であり、企業一社で解決できるものでもありません。個人の殻を破り、組織や企業の枠を超えて、多くの人が多様な視点と専門性や能力を持ち寄り、組み合わせたり、かけ合わせたりすることでイノベーションを生み、新たな価値を創り上げることで解決に導くことが必要です。
新たな価値創出への挑戦には、既存の価値体系との軋轢が付き物です。ゆえに、常に抵抗と困難を伴います。それに加えて、集まるプレーヤーないしはステークホルダーが増えるほど、見解や利害が衝突する可能性が高まり、新たな課題を抱え込んでしまうリスクが往々にして生じます。
そのような困難やリスクを乗り越えて、ともに新しい価値を創り出していくには、どのような価値観(志)の下に集まり、どのようなゴールを目指すのかを明確に示さなくてはなりません。それはまさにリーダーの役割です。
さらに、ともに価値を創り出していくプロセスをデザインすることも、リーダーの重要な任務です。つまり、目指すべきゴールから逆算して、どんな時間軸で誰がどのような価値を創造すべきか、足りない価値は何で、それを補うためにどんなプレーヤーを巻き込んでいくのかといったロードマップを描くということです。
そのうえで、一人ひとりのプレーヤーを勇気付けながらその行動変容を促し、大きな価値を創造できるよう、全体をオーケストレートしていかなくてはなりません。このように多様な人たちが共鳴できる志とゴールを設定し、力を合わせて価値を創り出すプロセスを設計して、一人ひとりの意識改革や行動変容をファシリテートすると同時に全体をオーケストレートしていくことが、「価値共創リーダーシップ」であると考えます。
さらに、組織や企業の枠を超えて求心力を持つためには、リーダー自身が志の一番の体現者であり続けると同時に、多様なプレーヤー間で生じる二律背反するような事象も、強靭な人間力をもって飲み込み、ゴールへと導く。それが、不確実性と複雑性が高まる今日に求められているリーダーの姿であると、私は考えます。