ケネディが迷走してしまった理由

 ダグラス・マッカーサーはこう言ったものだ。「司令官の善し悪しを決めるのは、その部下たちである」。この発言とほぼ同時期に、当時のアメリカ大統領もこれが事実であることを証明している。

 1961年の終わり、ジョン・F・ケネディは顧問らの圧力に屈し、ベトナムへの介入を段階的に拡大することに同意した。大統領に圧力をかけた顧問たちのなかには、軍事介入を推奨する内容の報告書を作成した重要人物も含まれていた。

 そして、その顧問の腹心であるアメリカ人司令官が、大統領によって、サイゴンに新設されたアメリカ軍司令部の最高責任者に任命された。彼はその忠誠心から世間体を整えるために、ベトナムでの敗北や障害の可能性を裏づける現地の情報をもみ消し、大統領に実情を悟られにくいようにした。

 作家兼ジャーナリストのデイビッド・ハルバースタムによれば、ケネディ大統領と顧問らがベトナムへの介入を決意した背景には、このような経緯があったという。この逸話は、忠実で有能な部下の誠意があだとなり、リーダーがいとも簡単にトラブルに陥ってしまうおそれがあることを如実に物語っている。

 ケネディのような優秀な政治家でさえ、このような罠にはまってしまうことを考えれば、今日のビジネス・リーダーが同じ目に遭ったとしても、何ら不思議ではない。どんな人でも、周囲の人たちから影響を受けている。言い換えれば、リーダーの立場にある人たちを含め、我々はみな「フォロワー」なのだ。

 そう考えれば、不祥事を起こしたエンロン元会長のケネス・レイが、腹黒い部下や顧問たちがエンロンを破綻させたのだと主張し非難したことも、あながち間違いではないかもしれない。

 私は20年以上にわたり、さまざまな業種のエグゼクティブ・コーチングの仕事に携わってきたが、彼らのキャリアが部下たちによって、いとも簡単に狂わされてしまう様子を目の当たりにしてきた。

 どうして、そのようなことが起きるのか。本稿では、コンサルタント兼エグゼクティブ・コーチとしての経験と、数十年間にわたる組織心理学研究の成果を踏まえ、どんな時に、いかなる理由から、部下たちの影響でリーダーが迷走してしまうのかについて考察する。