サマリー:医療・ヘルスケア分野でもAI(人工知能)の活用が進んでいる。法的規制を含む独自の制約があるこの分野で、AIによる価値創出をどう進めていくべきか。4人のエキスパートが議論した。

「AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する」というコーポレートミッションを掲げるエクサウィザーズが、医療・ヘルスケア領域でも幅広いプロジェクトを手がけ、その存在感を高めている。

人々の健康やウェルビーイングの増進という社会課題に対して、AIはどう貢献しうるのか。また、AIを課題解決に役立てるために必要なチーム編成や組織運営、ビジネスモデルのあり方とはどのようなものなのか。エクサウィザーズの石山洸氏と羽間康至氏、モニター デロイトの波江野武氏と大平淳氏の4人が意見を交えた(波江野氏はオンラインで参加した)。

価値のあるヘルスケアを実現し
自分らしく生きられる世界を目指す

大平 羽間さんご自身が2018年に立ち上げられた、エクサウィザーズのCare & Med Tech事業についてご紹介ください。

羽間 「それぞれの人にとって価値のあるヘルスケアを実現し、自分らしく生きられる世界を目指す」というビジョンの下、医療・介護・ヘルスケア領域のビジネスを展開しています。

 エクサウィザーズは、独自のAIプラットフォーム「exaBase」(エクサベース)を活用して、企業のAI実装やDX(デジタル・トランスフォーメーション)を支援するAIプラットフォームビジネスと、汎用的なAI製品をSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)として提供するAIプロダクトビジネスという2つの事業領域があり、Care & Med Tech事業部でもその2つを手がけています。

 AIプラットフォームビジネスでは、顧客企業の課題特定から仮説構築、AIの開発・実装、そして保守・運用まで一気通貫でサポートできるのが特徴です。AI導入やDXで成果を出すには、AIを使うためのソフトウェアが必要ですし、それをフル活用するための業務プロセスのデザイン、クライアント側の人材教育なども必要です。当社は、それらすべてをワンストップで提供しています。

 AIプラットフォームビジネスを通じて抽出された業界横断的な課題、開発したアルゴリズム、蓄積されたデータや知見などをもとに、広く社会課題を解決できる製品を開発・提供しているのがAIプロダクトビジネスです。具体的にはスマートフォンで撮影した歩行時の動画から転倒リスクを解析し、高齢者などの自立をサポートするAIサービス「CareWiz トルト」などがあり、介護施設を中心に利用されています。

大平 製薬企業のR&Dなども支援していますね。

羽間 はい。第一三共さんと2019年5月から共同開発プロジェクトを始動し、AIを活用した「データ駆動型創薬」に取り組んでいます。当社のAIエンジニアと第一三共さんの研究者の協働によって、新薬候補化合物の探索や解析に要する時間を大幅に短縮する成果を上げています。

 また、健康促進から予防・治療・予後まで一貫してケアすることを目指して、第一三共さんはさまざまな企業・団体で構成される「トータルケアエコシステム」の構築を進めていますが、エクサウィザーズもそこにコアパートナー企業として参画することが決まりました。当社はトータルケアエコシステムの実現に向けた企画・設計の支援、デジタルヘルスプロダクトの開発などに加えて、医療・ヘルスケア分野に特化した当社のデータ活用基盤「exaBase Healthcare Data Platform」を活用した、データ管理基盤の構築を担う予定です。

波江野 Care & Med Tech事業部のビジョンにある「それぞれの人にとって価値のあるヘルスケア」や「自分らしく生きられる世界」を実現するには、健康増進や病気予防などに向けて適切な行動変容を促すことも必要だと思いますが、そこにAIをどう役立てていくお考えですか。

羽間 現実的には、言葉や資料で説明するよりも、AIを用いたアプリやサービスをプロトタイプでもいいので実際に見てもらう、体験してもらうのが一番早いと思います。たとえば、2022年11月に米国のオープンAIが公開した(対話型AIの)「ChatGPT」は、爆発的にユーザーが増えていますが、何がすごいのか、どう役に立ちそうか、どこを改善すべきかといったことは、使ってみればよくわかります。

波江野 まずは、驚きを実体験してもらうということですか。

羽間 ヘルスケアにかかわらず、それがユーザーが腹落ちする一番の近道だと思います。