複数の製品を取り扱い販売している企業の管理者の中には、企業にとって重要な、価格、商品構成、製造技術等を歪められた原価情報をもとに決定していることがある。さらに都合の悪いことに、製品原価が不正確であるうえ、管理者が知るよりどころになる代替の情報がほとんどなく、企業がその問題に気づくのは、多くは競争力を失ってからか、さもなければ収益が低下してきてからである。
このように、原価情報が実際より歪められた背景には、製品の種類が少ない時代に適していた会計制度を、十数年も引き続いて利用してきたことがある。当時は、生産の重要な要因である直接労務費及び直接材料費を、製品ごとに容易に賦課することが可能であった。工場と本社の間接費を直接労務費を基準とした間接費配賦率で賦課することからくる誤差はわずかであった。また、より厳密にデータを収集加工し、各種の間接費を配賦する高度な方法をとるには費用面で採算が合わなかった。
今日では、製品の種類並びに販売チャネルが多様化してきている。今や直接労務費が企業全体のコストに占める割合が低下している反面、工場補助部門、販売、物流、技術などの間接機能に要するコストは急増している。しかし企業の多くは、このような増大している間接費を、依然として減少の一途をたどっている直接労務費で配賦しているか、あるいは販売ないし物流費については全く無視しているのが実情である。