社員の声なき声に耳を傾けよ

 消費財業界の最も基本的な原則は「消費者の声を聞け」である。競争相手の後手に回って、たえず移り変わるトレンドや嗜好を追っているようでは、敗北は避けられない。これと同様に、企業の成功も、社員の声をどれくらいすくい上げることができるかにかかっている。

 しかし言うは易しで、企業トップは、業種を問わず、しばしば社員の関心事やその理由を見落としている。その好例が『ニューヨーク・タイムズ』のジェイソン・ブレア事件、すなわち同紙の記者による記事の剽窃や取材の捏造である。

 経営幹部が彼の悪事について社員たちの声を聞こうと重い腰を上げた頃には、同社の名声は深く傷ついていた。マネジャーがスタッフの意見──たいていは善意からのもの──に耳を貸さないという問題は、企業社会にはつきものである。

 3年前、プロクター・アンド・ギャンブル(以下P&G)が気づいたのも、まさにこのような断絶だった。ちょうど同社が市場シェアと士気の両面で低迷していた頃である。

 CEOのA. G. ラフレーは最近『ビジネスウィーク』に、社員とブランドが会社の最も貴重な資産であると語っていた。しかし、ラフレーが同社の指揮を執り始めた2000年夏、P&Gのトップ15ブランドの半分はシェアを失いつつあり、社員の士気も一連の組織再編や自社の株価の急落によって手ひどく荒廃していた。

 P&Gのような市場志向の組織が危機に瀕しているならば、そのマーケティング・グループも動揺しているのは明らかだ。ラフレーは成長と収益性の起死回生をマーケティングに託していたが、当事者たちはそれどころではなかった。特に、本社マーケティング・グループが1998年の全社組織再編によって解体されたも同然とあっては、なおさらだった。

 同社のマーケティングの強みを取り戻すために、後にCMO(最高マーケティング責任者)に就任したジェームズ・ステンゲルは、シンシナティ大学のクリス・アレン教授とアンドレア・ディクソンの協力を得て、同社のマーケティング組織のスキル・ギャップを埋めるための新たな研修プログラムに着手した。

 アレンとディクソンは、どのようなスキルを磨く必要があるのか、どのようなタイプのプログラムが適切なのかについて感触をつかもうと、同社の経営幹部にヒアリングを始めた。すると、当時のマーケティング再生策は、データではなく本社にいる数人の勘に基づいていたことがわかった。

 さらに、幹部社員一人ひとりが会社の問題点について異なった診断と処方箋を持っていた。ある者は、問題解決の妙手は大がかりな研修プログラムの開発にあると信じていた。またある者は、ポストの新設を提案していた。さらに別の人物は、イントラネットを改良してeラーニングを展開したいと考えていた。