サマリー:企業における有効な人材活用が問われている。「人的資本経営」への注目はその端的な表れであるが、実現に向けては模索が続いている。プラスアルファ・コンサルティングの鈴村賢治氏に聞いた。

働き方や人材の多様化に伴い、企業における有効な人材活用が問われている。「人的資本経営」への注目はその端的な表れであるが、実現に向けては模索が続いている。タレントマネジメント事業を展開するプラスアルファ・コンサルティングの鈴村賢治氏は「科学的人事」を提唱、社員一人ひとりのデータを収集・活用することで、企業の経営に直結する戦略的な人事施策の立案・実現が可能になると語る。

プラスアルファ・コンサルティング
取締役副社長 タレントパレット事業部 事業部長
鈴村賢治氏

人事制度や働き方が一変 今「科学的人事」を世に問う理由

「パンデミックに揺さぶられたこの3年ほどの間に起こった変化は、社会のさまざまな分野に及びます。組織の中で働く人、そして人事領域にも大きなインパクトをもたらしました」 

 こう振り返るのは、プラスアルファ・コンサルティング取締役副社長で、タレントパレット事業部事業部長を務める鈴村賢治氏だ。 

 この間、リモートワークがいっきに普及、社員を勤務時間で管理・評価するのではなく、仕事の成果で評価しようという動きが加速した。それに伴って人事評価制度も変化、ジョブ型雇用にシフトするところも出てきた。「人生100年時代」「リスキリング」といった言葉を目にすることも多い。 

 もともと日本の大きなテーマである労働人口の減少に対して、政府も「人的資本」というキーワードを掲げ、企業の競争力の源泉は人であるとメッセージを出すようになっている。折しも2023年1月31日には、日本の上場企業に対して、人的資本に関する戦略や指標などの開示を求める内閣府令が公布された。いま世の中では、人材に熱い視線が注がれている。 

 鈴村氏は「ある企業経営者は『これからはヒト・モノ・カネではなく、ヒト・ヒト・ヒトの時代になる』と語っています。ただ、日本企業では、それを担う人事部門の多くが依然として『人材管理』に留まり、異動などの判断は非常に属人的です」と話す。

  鈴村氏の人事領域に対する課題意識、そして使命感は、「科学的人事」という言葉に集約されている。『事実に基づかない属人的な人事業務をやめ、データ活用による客観的な判断で企業の意思決定に直結する戦略的人事を』というのが、そこに込められた思いだ。実際、先進企業では「科学的人事」に基づいたタレントマネジメントが実践され始めており、まだ着手できていない企業との間には、すでに差が生まれ始めているという。 

「『科学的人事』といっても、かつてはまだピンとくる企業は少なく、イノベーティブな先進企業が取り組みを始めている程度でした。ところがコロナ禍などによる大きな労働環境の変化が、人材活用を喫緊の課題へと押し上げました。その中で人事部門は、人材管理部門から人材活用部門へとシフトすることが求められるようになってきました」と鈴村氏は語る。そこにはどのような意識の転換があるのか。 

「経営戦略として中期経営計画などで掲げたゴールに向かっていくため、より人事戦略が重要になっています。これまで人事部門は、いまいる人でどう回していくかという発想でしたが、これからはあるべき姿からバックキャスト(逆算)して、現状とギャップがあるなら、それを埋めていくという考え方に変化していくでしょう」