データの収集・活用の原則は目的を明確化すること
鈴村氏は、実際に「科学的人事」に基づいたタレントマネジメントを行う企業の事例も紹介する。
「ある企業では社員のIDにひも付けて、さまざまな情報を一覧できるシステムを構築しました。それによって、社員の役職や等級だけでなく、異動歴、スキル・能力、評価など、さまざまなデータを横串で見ることができます。その企業の人事部長からは、『役員会の景色が変わった』と聞きました。これまでは人事戦略などの議論をするにしても、『この社員は知っているが、この社員は知らない』といった会話になりがちで、興味がないと議論にならないことも多かったが、『科学的人事』の視点でタレントマネジメントシステムを導入すると、役員みずからダッシュボードをクリックし、他の役員とデータを共有しながら活発に意見交換するようになったそうです」
これは理想的な例だが、鈴村氏はここでの注意点として、やみくもにデータを集めてひも付ければいいというわけではない、として次のように話す。
「『科学的人事』を実現する大きなポイントは、データ収集・活用の目的を明確にすることです。あるサービス業では、離職の防止にデータを活用しています。これから活躍してほしいと考えている人材が突然離職する事態は、どの企業でも起こりえます。従来は『日頃から上司が気を配る』といった属人的な対応になりがちでした。その企業では社員のアンケートや日報などをテキストマイニング分析することで、離職予兆を発見して人事部門と現場が一緒になって予防の取り組みを進め、効果があったと聞いています」
鈴村氏によれば、このように「目的」を定めることで、使えるデータ・使えないデータなどの判断も進むという。「成功体験を積み、『目的』を増やしていくのが『科学的人事』におけるタレントマネジメントの成功パターンの一つです」と鈴村氏は話す。
タレントマネジメントシステムは「科学的人事」実現の近道
「科学的人事」思考は人事部門だけでなく、経営層、さらには社員にも必要でメリットも大きいと鈴村氏は話す。
「経営層にとっては、将来にわたる持続的な成長を実現するために、どのような人材がどれだけ必要なのかといったことを落とし込むことができ、事業戦略や投資の意思決定の解像度が高まります。人事部門は、必要なスキルセットを明示して全社に呼びかけることができ、社員も会社の目指す方向がわかれば、リスキリングのモチベーションにもつながるでしょう」
ここで大きいのは、人材や組織の状態をダッシュボード化することで、前年度との比較や目標に向けた達成度などが定量化できることだ。
「投資家に向けても、取り組みの進捗をエビデンスのある数値で報告できます。『人的資本の開示』に関して、戦々恐々としている人事部門もあるかもしれませんが、日頃から『科学的人事』に基づいたタレントマネジメントを実践していれば、いつも見ているものを提出するだけでよく、自信を持って出せる数字を堂々と開示できます」
どうすれば成功事例に登場するような企業の「科学的人事」を実現できるのか。自社で開発したタレントマネジメントシステム「タレントパレット」を提供、数多くの企業を支援してきた鈴村氏は、「クラウドで利用できるソリューションなら、成功企業の知見を比較的短期間で導入することも可能になります。これから『科学的人事』を実現したいと考える企業は、これらの利用が大きな近道です」と助言する。
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