他社との見えない壁を壊して、連携を進めていきたい

西上 潜在ニーズから新たなビジネスを興してマーケットを切り拓く、あるいはルールがなければみずから提案してルールメイキングしていく。その重要性を私たちは繰り返し述べてきましたが、富士フイルムではそれを当たり前のように実践されているのが素晴らしいと思います。

鍋田 データの適正な利活用の成果を社会に還元する意味で、当社のAI開発支援プラットフォームを医療機関に開放する取り組みを始めました。当社では患者が多い疾患を対象にかなりの数の医療AIの開発に取り組んでいますが、どれだけ頑張っても当社だけでは限界があります。特に希少疾患に関しては、それを専門とする医師が主導して開発していただいたほうがスピーディです。

 ですから、医師主導でAI開発ができるプラットフォームとして活用していただこうと、サービスとしてご提供することを決めました。これによって医師の研究を支援し、新たな医療AIを開発いただいた際には、社会実装を当社がサポートいたします。このような形で産学がWin-Winとなる、開発から社会実装のエコシステムを目指しています。

西上 医療に関わるステークホルダーが描いている未来像や志に大きなずれはありません。たとえば、国民全体、世界全体のヘルスエクイティ(健康資産)を増大させるという目標に異議を唱える人はいないと思います。そのコンセンサスがあれば、オープンに取り組める分野は多いですから、御社がAI開発支援プラットフォームを開放されたのは、非常に意義深い取り組みだと思います。

鍋田 他のステークホルダーとのオープンな連携という点では、当社もまだまだです。私たちは、医療現場が業務の負荷から解放され、誰もが高品質な医療を低コストで受けられる未来を目指していますが、当社だけで実現できるとは思っていません。何かのきっかけで他社さんと話す機会があると、「富士フイルムと組んで、こういうことがやりたい」と提案していただけることがあります。私たち自身が他社との間に見えない壁をつくっているのだとしたら、その壁をどんどん壊して、境界領域を飛び越えていく必要があります。それが、今後の課題であり、大きなチャンスでもあると思っています。

長谷川 医療や健康といった社会課題の解決を大きなビジョンとして掲げながら、具体的な解決策を着実に社会実装されている。そういう御社が旗を振ることで、領域を超えて集まってくる仲間は多いと思います。社会・経済システムの変革のカタリスト(触媒)を標榜している私たちデロイト トーマツ グループとしても、ぜひ御社と一緒に医療・健康課題の解決に取り組んでいきたいという思いを強くしました。