サマリー:役員や上級管理職の成長を支援する手法として、注目されているのが「エグゼクティブコーチング」だ。その背景や米国における活用状況、導入時の留意点などについて、学習院大学経済学部教授の守島基博氏に聞いた。

変動性が高く、予測が困難なVUCAの時代。過去の成功パターンは通用しなくなり、経営者やリーダーは新たな方法を見出す必要性に迫られている。こうした中、役員や上級管理職の成長を支援する手法として、あらためて注目されているのが「エグゼクティブコーチング」だ。その背景や米国における活用状況、導入時の留意点などについて、人材マネジメント論の第一人者、学習院大学経済学部教授の守島基博氏に聞いた。

人材育成の個別化が進む中、コーチングは理想的な手法

 欧米に続き、1990年代後半から日本でも導入され始めた「エグゼクティブコーチング」があらためて注目されている。その理由について、学習院大学教授の守島基博氏は、次のように語る。

「選抜型のリーダー育成が限界に来ていることと、人材育成の個別化が進んでいることが大きな要因です。急速に変化する経営環境に対応するためには多様なリーダーの育成が必要ですが、画一的な人選や集団研修ではもはや実現できません。人材育成やキャリア開発を個別化し、さまざまな人材が活躍できる体制をつくる必要があります。個々人が対象でマインドにも働きかけられるコーチングは、まさに理想的な手法といえます」

 加えて、市場環境が急速に変化する中、自分の考えや行動に自信が持てなくなったビジネスリーダーやビジネスパーソンが増えていることも、コーチングが見直されている要因の一つに挙げられるだろう。

 現在、欧米では著名な大企業をはじめ、多くの企業でエグゼクティブにコーチがつくことは、当たり前のようになっている。それに対し、これまで日本でエグゼクティブコーチングが広く普及しなかったのはなぜだろうか。

「大きな障壁となったのは、経営者の“過信”です。『自分はこれまで業績を大きく伸ばしてきた』『失敗するはずがない』という思いが強く、自己変革を受け入れるマインドがなかったからです。『ここが弱い』と指摘されると怒ったり反発したりする人もいます」

 そもそもエグゼクティブコーチングは、自分の弱みを素直に受け入れ、それを改善しようという前向きな気持ちがなければ成り立たない。

 経営者が過去の成功体験に囚われ、環境変化に合わせて柔軟に経営戦略や事業方針を変えていくことができなければ、企業の成長は止まってしまう。今後、日本でもコーチングを受け入れる風潮が進むのは間違いないだろう。

 守島氏がもう一つ、普及しなかった理由として挙げるのは、エグゼクティブコーチングの高い費用だ。集合研修に比べ、個々人を対象とし、しかも、1人当たりのコストが高い点がネックになっていたといえる。

 日本では優れたエグゼクティブコーチの数が少なかったという問題もあった。今後、注目度がさらに高まれば、米国のように優秀なコーチをめぐる争奪戦が起きるかもしれない。